生物学者の視点で見る「ワクチン接種」の大前提 福岡伸一が説くコロナへ対抗するための出発点

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つまり、ワクチンの作用をくぐり抜けてしまうような、変異株の出現──細菌でいえば耐性菌の出現──を促してしまうような逆効果の可能性もある。そうするとまたワクチンを作り直さねばなりません。いたちごっこになります。ピュシスの可変性、変幻自在さを過小評価すべきではないということです。

新型コロナウイルスに対抗するには時間がかかる

しかし、これは、私たちの体が可変的、変幻自在だということでもあります。私は、ピュシスとしてのウイルスに真の意味で対抗できるものは、ピュシスとしての自分自身の柔軟な免疫系だけだと思っています。

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ウイルスとの共生とは、ウイルスの感染性と宿主の身体性のせめぎ合い、つまり両者の間に動的平衡が成立するということにほかなりません。それには時間がかかります。

ワクチンによる免疫系の賦活化は有効なコロナ禍対策になると思いますが、その前提として、まずはピュシスとしての自分の身体性を信じる、ということが基本になると思います。

身体性を信じる、というのは、ありのままのピュシスを受け入れるということでもあると思います。ピュシスは自然そのものですから、ノイズや乱れ、変異、濁りや汚れがつねに含まれています。現代の高度にスマート化された社会では、これらをロゴスの力で浄化してしまいたい、という清潔さへの異常な希求が見られます。

ピュシスとしての自分の生命、身体性と言ってもいいと思いますが、これを今一度、虚心坦懐に見つめ直すことが、新型コロナウイルスに対抗するための“出発点”になると思います。

福岡 伸一 生物学者、青山学院大学教授、ロックフェラー大学客員教授

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ふくおかしんいち / Shin-Ichi Fukuoka

京都大学卒および同大学院博士課程修了。ハーバード大学研修員、京都大学助教授などを経て、現職。サントリー学芸賞を受賞し、87万部のロングセラーとなった『生物と無生物のあいだ』や、『動的平衡』シリーズなど、“生命とは何か”を動的平衡論から問い直した著作を数多く発表。近著に『迷走生活の方法』『生命海流』などがある。

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