生物学者の視点で見る「ワクチン接種」の大前提 福岡伸一が説くコロナへ対抗するための出発点

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生命を、単純な図式で、ロゴス的に解釈すると、ピュシスとしての生命から大きなリベンジを受けかねません。生命はロゴス的マシナリー(機械)ではありませんから。歯車を1つ大きなものに交換すれば、機械全体が効率よく回るかといえば、むしろ生命現象では逆のことが起きます。

歯車を大きくしたことの無理が、全体の流れに歪みを波及させてしまいかねません。ある反応を阻害したり、ブロックしたりすれば、痛みや不快感を一時的に軽減することができるかもしれません。

しかし、阻害やブロックは、ピュシスとしての生命体をむしろ逆の状態(阻害やブロックに対抗する方向)へ導きます。薬が効かなくなったり、ドラッグの使用量が増したり、より中毒性の高いものに向かうのはそのためです。

あるいは、抗生物質で、細菌を制圧したはずなのに、抗生物質という大きな網をかぶせて細菌を抑え込んだことが、逆に今度はその網の目をかいくぐって、抗生物質に抵抗性を持つ変異株を選抜することに手を貸してしまう。

その変異株を制圧するために、新しい抗生物質が開発されると、さらに強力な変異株が選抜される、といういたちごっこが繰り返され、今ではどんな抗生物質も効かない厄介な細菌が存在しています。これがスーパー耐性菌の出現ということです。これらはすべて、ピュシスからのリベンジです。

ワクチンをどう考えるか?

新型コロナウイルスのワクチンに対しても、長い射程を持った視点が必要だと思います。

確かにワクチンは、社会的不安を解消する有力な切り札になりえますが、それを万能視してやみくもに礼賛する態度も、逆に、アレルギー的な拒絶反応を示す態度も、ともに冷静さを欠いていると思います。新型コロナワクチンはワープスピードで開発されたがゆえに、まずは有効性の確認と慎重な副反応の検証に注意を向けるべきです。

ワクチンは、現在、世界中で奪い合いとなっています。本来、2回投与してしっかりと免疫反応を惹起(じゃっき)させるべきところを、よりたくさんの人に接種することを目指して、1回投与で済ませて、まずは広範囲の普及を優先しようとする動きもありました。

これも議論が必要なポイントです。ワクチンによる免疫賦活作用が不十分なまま、広く、浅く、ワクチンの網の目をかけることで、かえって、新・新型ウイルスへの変化に手を貸してしまいかねません。

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