日野、EVで解消する宅配ドライバーの切実な悩み 2022年初夏に発売、荷台を低くし負担を軽減

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荷台の低床化と並んで、日野がこだわったのが、普通免許で運転できることだ。最大積載時の荷物込みの車両総重量が3.5トンを超えると、運転には専用免許(7.5トンまでは準中型免許)の取得が必要で、ドライバー募集時のハードルが高くなる。そこで、総重量が3.5トンを超えないよう、現場での使用に支障が出ない範囲でスペックを抑えた。

搭載電池の容量が典型例だ。デュトロZEVの電池容量は40キロワット時。1回のフル充電で走行できる距離(航続距離)は約100キロメートルで、数百キロ走るテスラなどのEVに比べると短い。しかし、東野氏によると、都市部における宅配用トラックの平均的な1日の走行距離は60キロメートル程度で、余裕を持たせて100キロメートルあれば十分だという。

電池の容量を増やせば航続距離は伸びるが、増やせば増やすほど車両価格が高くなるし、車体の重量が重くなり、普通免許で運転できなくなる。「現場での実際の使われ方や全体のバランスの中で、最適な電池の容量を考えた」(東野氏)。

ヤマト運輸が2トン積みトラックを宅配現場で多く使用しているのに対し、あえて最大積載量を1トンに抑えたのも、実際の必要性と車両総重量を総合的に判断してのことだ。取り扱いが増えているネット通販の荷物は軽いものが大半なので、重量的には1トンまで積めれば宅配現場のニーズを十分満たせるという。

「パッケージングに日野の独自性」

日野が満を持して送り出すEV時代の宅配用トラック。先述したように主要な電動関連部品は外部から調達したもので、自身で心臓部のエンジンを造る従来のトラックより内製化率は下がるが、日野の下義生会長は「お客さんの現場を熟知し、最終的にどんな車両に仕上げるかが腕の見せ所。今回のEVはそのパッケージングに日野の独自性や競争力がある」と話す。

デュトロZEVは社内での走行性能などの評価を終えた後、国からの認証取得を経て、実際に宅配事業者に公道でのモニター使用をしてもらう予定だ。順調にいけば、2022年初夏に正式な市場投入が始まる。日野のデュトロZEVは、トラックEV時代の競争力を占う1つの試金石となりそうだ。

デジタル特集「トラック CASE最前線」では以下の記事を配信しています。

日野といすゞ、「電動化時代」に手を組む必然

迫る物流危機、「つながる技術」に高まる期待

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いすゞ社長が語る「CASE時代の強烈な危機感」

井上 沙耶 東洋経済 記者

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いのうえ さや / Saya Inoue

商用車・部品メーカーを担当。大学時代は写真部に所属し、社会学を中心に学ぶ。趣味は、漫画を読むこと、映画のサントラを聴くこと。

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