東急運転士が考案「操縦テクだけで省エネ」実践法 ゆっくり走っても「ダイヤに影響しない」ワザとは?

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操作もシンプルな新エコ運転。だが、この手法を確立するまでにはさまざまな試行錯誤があった。

新エコ運転を考案するきっかけになったのは、コロナ禍前に始めたラッシュ時の運転方法研究だったという。朝ラッシュ時は列車本数が多いため、先行列車に追いついて駅と駅の間で停まってしまうこともあり、「とくにカーブの区間で停まると、車体が傾いているのでお客様にはきつい状態になってしまう」(羽野さん)。駅間で停まることなく運転するためには、極力ノッチを使わずにゆっくり走ることだ。そこで気づいたのは、「ノッチを使わずに走れるのであれば、朝ラッシュ時もエコ運転ができるのでは」ということだった。

その直後、コロナ感染拡大が深刻化。鉄道の利用者数が減少する中、運行コストの削減が重要な課題となった。一方で、利用者減はエコ運転導入にプラスとなる面もあった。駅での乗降時間が短くなったことだ。エコ運転はスピードを抑えるため駅間の所要時間がやや延び、駅での停車時間は短くならざるをえない。このため混雑が激しい時間には導入しにくかったが、利用者減で乗降時間が延びることが少なくなり、ラッシュ時もエコ運転ができる可能性が高まった。

「トロトロ走らない」がコンセプト

新エコ運転の研究は2020年の7月ごろスタート。羽野さん、新山さん、竹内さんと、当時奥沢乗務区に所属していたもう1人の運転士による4人のチームが中心となり、ダイヤを維持しつつどこまで電力消費を減らせるかを探る取り組みが始まった。コンセプトは遅延を発生させないこと、ノッチを入れる時間を1秒でも減らすこと、動力を使わず惰性で走る「惰行」の時間を長くすることだ。

「新エコ運転」開発の中心となった3人。左から竹内さん、羽野さん、新山さん(記者撮影)

そして、もう1つの条件は「トロトロ走ってお客様に不快感を与えないこと」(羽野さん)だ。チームメンバーは非番の日にさまざまな路線に乗り、低速でもどの程度のスピードなら不快感がないかを調査。その結果、時速40km以上を1つの目安とすることに決まった。

各駅間でどの程度まで加速してノッチをオフにするかの目安は、チームメンバーが日々の乗務の中で試行錯誤し、意見を集約して固めていった。目黒線はほかの東急各線と接続するため、多少の遅れでも乗り換えができなくなる可能性がある。新山さんは、「コロナ禍で打ち合わせがなかなかできない中で、どの程度でノッチオフすればいいのか、どこまでノッチを使わずにいけるか個々人がまずやってみる。その経験を月1回程度集まって共有していった」と語る。

試行錯誤で得た大きな「気づき」は、同線で導入している自動のブレーキシステム「TASC」でも、ブレーキをかける時間を短縮できることがわかったことだという。プロの運転士にとって、「これはTASCの歴史が変わるかな、というくらいの気づきだった」と羽野さんはいう。

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