東急運転士が考案「操縦テクだけで省エネ」実践法 ゆっくり走っても「ダイヤに影響しない」ワザとは?

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新しいエコ運転は、従来と比べて速度を大幅に落として走る。例えば田園調布駅から多摩川駅に向かう場合、従来は時速75kmまで加速していたが、新エコ運転では時速45kmになった時点でノッチ(自動車のアクセルに相当)をオフにして加速をやめ、あとは動力を使わず惰性による「惰行」で走る。走行速度は遅いものの、その分ブレーキを使う時間が短くなるため到着時間の差は数秒だ。

運転席から見える位置にある加速の目安。各停・急行ともに時速60kmまで加速してノッチを切れば「エコ運転」ができる。隣の三角は行き過ぎて停車位置を修正する場合、ノッチを使わず勾配を利用してバックできるという印だ(記者撮影)

時速何kmまで加速するかは駅間ごとに異なり、各駅のホームドアの裏には運転席から見える位置にノッチをオフにする速度の目安を書いたシートを貼っている。速度は各駅間ごとに計算して定めてあり、この目安に従って運転すれば、電力消費を抑えた運転ができるという仕組みだ。各駅停車の場合、従来と比べてノッチを使用する時間が1往復(日吉―目黒間)あたり30%減ったといい、使う電気も少なくなったことになる。

一方、エコ運転は駅間の所要時間が多少伸びるため、駅の停車時間がある程度短くなるのは避けられない。だが、目黒線ならではの強みがある。「ワンマン運転のため、ハンドル操作もドア操作も自分でやる」(奥沢乗務区・新山竜介さん)ことだ。運転とドア開閉を1人で行うためタイムラグが少なく、停車時間が短くなる分をカバーできるという。

勾配を生かして自然に加減速

急行は各停よりも効率がよく、ノッチの使用時間を従来比で40%削減した。その秘密は「勾配」だ。

例えば大岡山駅から武蔵小山駅までの区間には上り・下りの両方の勾配がある。大岡山を出発するとしばらくは上り勾配で、1つ目の通過駅である洗足を経て次の通過駅の西小山までは下り勾配、そして同駅付近から停車駅の武蔵小山までは再び上り坂だ。

この線形を生かし、急行の場合は「大岡山を出て一度ノッチをオフにすれば、あとは武蔵小山に着くまでハンドルを操作しない」(奥沢乗務区・竹内奏真さん)運転方法を編み出した。大岡山を発車後、時速52~53kmまで加速したところでノッチをオフにし、あとは下り勾配で加速。停車駅の手前は上り勾配で自然に減速していくという仕組みだ。

目黒線は「ATC」(自動列車制御装置)を導入しており、指定された速度を超えると自動でブレーキがかかる。このブレーキは衝撃があるだけでなく、自動減速した後に再加速すればノッチを使う時間も増えてしまう。だが、今回の手法であれば、発車から停止まで一度も制限速度のコードに当たって自動減速することなくスムーズに走れるといい、不要な加減速がない分乗り心地の向上にもつながる。

同線は駅の停止位置に自動で停まる「TASC」というシステムを使っているため、停車時のハンドル操作は不要だ。「うまくいけば、上りの急行は6回ハンドル操作をするだけでいいくらい」と羽野さんはいう。

次ページ発案のきっかけは「ラッシュの運転方法研究」
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