ちょっとした工夫で、選手は大きく変わる 侍15U・鹿取監督が考える、国際経験の重要性

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左から2番目(写真:日本野球機構提供)

異なる環境に身を置くことは、自身が培ってきた方法論を見直す機会にもなる。

鹿取は2001年、ロサンゼルス・ドジャース傘下のマイナーリーグでコーチに就任した。現役時代の米国キャンプ中に親しい友人ができ、「いずれコーチとして渡米したい」と思っていた夢を実現させた。

「投手のメカニズム、指導者としての教え方について、野球とベースボールの相違点を確認しに行きたかった」

アメリカではすべてのメニューの指導法が球団ごとにマニュアル化され、全員平等にチャンスを与えられる。合理的なシステムこそ、200人を超える所属選手からメジャーリーグまで到達するスーパースターを輩出する根幹だ。

一方、マニュアル原理主義には問題もある。コーチはすべての指導を教則通りに行うので、マニュアルの枠の中にしか成功モデルが存在しない。実戦で結果を残せず、模範的なレールから外れると、明日にでもクビを切られるのは日常茶飯事だ。

数日のアドバイスで激変

鹿取がコーチ就任した頃、ジム・トレーシーがドジャースの監督を務めていた。1983年から大洋ホエールズで2年間プレーした指揮官は、アメリカ人の投手コーチに「鹿取は技術をわかっているから、教えてもらったほうがいい」と話した。監督が日本式に理解のあることを確認すると、鹿取は「若手に技術指導していいですか?」と聞いた。マイナーではコーチが自身の理論を教える機会はほとんどないが、日本では指導者が主観や経験を伝えるのは当然のことだ。鹿取はアメリカスタイルの指導に、日本式を加えるべきだと考えていた。

当時24歳のスコット・プロクターは、マイナーで契約続行か打ち切りの当落線上にいた。投球フォームが合理的でなく、鹿取は数日間アドバイスを送った。

「腕の使い方はいいから、他を直せば変わると思った。こんなにいい投手が下の世界で終わるのはおかしいと感じ、少し教えたらすごく変わった」

プロクターは鹿取の声に耳を傾け、フォームを改善した。すると実戦マウンドで結果を残し、マイナーで成長するチャンスを与えられた。ニューヨーク・ヤンキースに移籍した2004年にメジャーデビューを飾ると、2006年にはリーグ最多の83試合に登板している。「ちょっと変えれば、こんなに変わるんだって改めて感じた。大したことは言ってないんだけどね。ちょっと手を差し伸べてあげれば、変わる子がいると思う」。

少しの変化で、人は大きく変わることがある。異なる見方を取り入れると、自身の長所も短所も見えてくる。視点を変えれば、人生が変わるのだ。グローバル化した現在、少しでも視点を増やそうとする姿勢が成功につながっていくのかもしれない。

=敬称略=

中島 大輔 スポーツライター

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なかじま だいすけ / Daisuke Nakajima

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。2005年夏、セルティックに移籍した中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に野球界の根深い構造問題を描いた「野球消滅」。「中南米野球はなぜ強いのか」(亜紀書房)で第28回ミズノスポーツライター賞の優秀賞。NewsPicksのスポーツ記事を担当。文春野球で西武の監督代行を務める。

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