「部下からの評価が低かった」自分が変われた理由 マネジャーを超えるリーダーのインテグリティ

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■パイが大きくなれば取り分は増える

仕事をシェアすることで、各人にとっては自分の取り分が減ったように見えても、時間が経つにつれ、全体のパイは大きくなりました。結果的には全体の売り上げをパートナーの頭数で割った値は毎年大きくなっていったのです。協働することによって、1人当たりのパイが増えたということです。

たとえば、1人であるクライアントに1億円の仕事をしていたとする。それが自分の成績になるはずなのに、だれかと一緒にやった瞬間に半分になる。しかしそれを10回繰り返していったら、どうでしょう。1回目は1億が5000万と5000万になる。しかし1人では年間に3回か4回しか仕事ができない。でも2人でやったら、6回、7回とできる。

7回できたら、7億円の売り上げでしょう。それを2人で分けたら1人当たり3.5億円の売り上げです。1人当たり3.5億円は同じだったとしても、クライアント全体にはもっと大きなインパクトを与えることができています。

ということを皆に理解してもらいながら、情報を公開した人、他者にギブをした人が損をしないように、評価の仕方も変えていきました。やはり人事評価を変えないと人間は動かない。

「この案件は自分の専門の領域ではないので、専門性があるあなたにぜひ入ってほしい」というように機会を共有した人は評価を高くする。逆にいくら売り上げても、他人と機会を共有しない人の得点は減らす。人を助けたらポイントをつける。同じ売り上げを立てていても、一人だけでやっている場合は割り引く。

この考え方は、いくつかのほかのファームではすでに行っていたのですが、私が自分でリードしてやったのは初めてだったので、手応えを感じました。

リーダーの仕事は「登る山」を決めること

リーダーの仕事とは、目指すものの全体像やゴールを決めて、それを共通認識させることです。そうしたらチームのメンバーはおのずと働きだす。

先に述べた研修では、こんなふうにも言われました。

「リーダーの仕事は登る山を決めることです。あの山を登るための道筋はいくつかある。どの道がふさわしいかはメンバーの力量によって違う。だからそれを見抜いて決めてやらなければいけない。しかし山を登り始めたら、あなたが手取り足取り導くわけにはいかないから、本人に登らせるしかない」

ゴールを決めて、どの道を行くかを決めたら、あとはその人を信じなさい、ということです。わたしはこの話を聞いて、今までの自分の仕事のやり方は、根本的に間違っていたと気づきました。

「あなたはマネージしているだけでリーダーではない」と言われたころの私は、完成形がわかっているのは自分だけで、メンバーそれぞれに分割したタスクを与える、という仕事のやり方をしていました。

登る山、ゴールを決めたらば、その後は情報を共有して、仕事を分け合うことで、メンバーそれぞれに最大限の力を発揮してもらえるか。私自身、リーダーとしてのインテグリティを問われ続けています。

岸田 雅裕 ラッセル・レイノルズ 日本代表

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きしだ まさひろ / Masahiro Kishida

1961年愛媛県松山市生まれ。東京大学経済学部経営学科卒業。ニューヨーク大学スターンスクールMBA。パルコ、ローランド・ベルガー、ブーズ・アレン・ハミルトン、カーニーなどを経て、2021年より現職。2014年カーニー日本代表に就任してからは、企業戦略、事業戦略、リーダーシップ開発、M&A、トランスフォーメーションの支援を多数行った。2021年からは、ラッセル・レイノルズ日本代表として「日本の経営者の質を高める仕事」に取り組んでいる。著書に『マーケティングマインドのみがき方』『コンサルティングの極意――論理や分析を超える「10の力」』(いずれも東洋経済新報社)などがある。

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