韓国が文化財「返還」運動を加速するワケ 2010年8月の菅談話がもたらした混乱

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日本政府は2011年、2度にわたって合計1205点の儀軌を韓国に引き渡した。写真は仁川空港に到着した儀軌を迎え入れるセレモニーの様子(写真:AP/アフロ)

2015年には国交正常化50年を迎える日韓関係。だが現在の両国関係は、朴槿恵大統領が安倍晋三首相との会談を拒否し、中国寄りの姿勢を強めるなど、友好とはほど遠い状態だ。

理由は歴史認識問題や慰安婦問題などだが、両国間にはもうひとつ問題がある。日本に存在する朝鮮半島由来の文化財は韓国政府の発表によると6万1409点あるとされるが、その返還運動が起こっているのだ。

7月31日には、東京国立博物館に「保管中止要請書」が送付されてきた。送り主は韓国の海外搬出文化財の返還請求を求めている僧侶の慧門氏が代表を務める市民団体「文化財自分の位置取り戻す」だ。

要望書の内容は、同館が所蔵する小倉コレクションのうち、朝鮮大元帥兜、金冠塚など34点の保管を中止しろというもの。8月20日まで中止しない場合は、日本の裁判に訴えるという。

小倉コレクションとは、南鮮合同電機や朝鮮電力などの社長を務めた小倉武之助氏が併合時代に朝鮮半島で収集した1110点にも及ぶ文化財を指す。1981年に遺族により東京国立博物館に寄贈された。

慧門氏らの主張は、「慶州金冠塚は朝鮮総督府が1921年に発掘し、これに関与した慶州博物館長が横領した疑惑がある。よって同品は盗品だ」とするものだ。

「完全かつ最終的に解決済み」との立場

そもそもこうした問題は、1965年の「文化財及び文化協力に関する日本国と大韓民国との間の協定」で完全かつ最終的に解決済みだ。

それ以前にも、朝鮮半島から日本にもたらした文化財についても、日本は「正式の手続きにより購入したかあるいは寄贈を受けたか、要するに正当な手続きを経て入手したもので、返還する国際法の義務はない」(1964年3月25日衆院文教委員会にて宮地茂文化財保護委員会事務局長の答弁)との立場をとる。

なお日本は韓国と文化財協定を締結する際、附属書に提示された考古資料や石造美術品、陶磁器や図書など1321点を韓国に贈与した。これらは日本政府が所有する文化財で、韓国領域に由来し、同国内に同種が多くないものが対象とされた。

引き渡した理由について、当時の椎名悦三郎外相が「返還する義務は毛頭ないが、韓国の文化問題に関して誠意をもって協力するということで引き渡した」と説明している(1965年12月11日参院本会議)。

要するに戦後一貫して、日本は国内にある文化財を引き渡す義務はないという立場を堅持しているわけだ。

ところがこれを崩したのが、2010年8月に当時の菅直人首相が出した「菅談話」だ。

韓国併合100周年に当たる節目として韓国への謝罪が盛り込まれた談話だが、この中で韓国側が「返還」を求めてきた朝鮮王朝儀軌について、①日本が統治していた期間に、②朝鮮総督府を経由してもたらされ、③日本政府が保管しているものについて「引き渡す」と明記された。

そしてその談話に従って日本政府は2011年、2度にわたって合計1205点の儀軌を韓国に引き渡した。だがその中に、宮内庁書陵部が古物商から買い入れた儀軌が4点含まれていた。

「出血大サービス」ともいえるこの措置を、韓国側は大喜びで受け入れたと聞く。だが民主党政権の思惑通りに、日韓友好が進んだわけではない。

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