「リスクのある小麦」の輸入を続ける日本の末路 発がん性指摘される農薬を効率重視で直接散布

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この表示義務の厳格化が、2023年4月から施行されれば、表示義務の非対象食品が非常に多いなかで、可能な限りnon-GMの原材料を追求し、それを「遺伝子組み換えでない」と表示して、消費者にnon-GM食品を提供しようとしてきた、GMとnon-GMの分別管理の努力へのインセンティブが削がれてしまう。そして、小売店の店頭から、「遺伝子組み換えでない」という表示の食品は、一掃される可能性が出てくるだろう。

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例えば、豆腐の原材料欄には、「大豆(遺伝子組み換えでない)」といった表示が多いが、国産大豆を使っていれば、GMでないから、今後も「遺伝子組み換えでない」と表示できそうに思うが、流通業者の多くは輸入大豆も扱っているので、微量混入の可能性は拭えない。

実際、農民連食品分析センターの分析では、「遺伝子組み換えでない」大豆製品26製品のうち11製品は「不検出」だったが、15製品に0.17パーセントから0.01パーセントの混入があり、今後は、これらは「遺伝子組み換えでない」と表示できなくなる。

「GM原材料の混入を防ぐために、分別管理された大豆を使用していますが、GMのものが含まれる可能性があります」といった任意表示は可能としているが、これではわかりづらくて、消費者に効果的な表示は難しい。そこで、多くの業者が違反の懸念から、表示をやめてしまう可能性もある。すでにnon-GM表示をした豆腐などからの撤退が始まっている。

割を食うのは消費者

GM表示義務食品の対象を広げないで、かつ、GM表示義務の混入率は緩いままで、このようなnon-GM表示だけ極端に厳格化したら、non-GMに努力している食品がわからなくなり、GM食品ばかりのなかから、いったい、消費者は何を選べばよいことになるのだろうか。消費者の商品選択の幅は大きく狭まることになり、わからないから、GM食品でも何でも買わざるを得ない状況に追いやられてしまうだろう。

これでは「GM非表示法」である。厳格化といいながら、アメリカの要求をピッタリと受け入れただけになってしまっている。

鈴木 宣弘 東京大学大学院 農学生命科学研究科教授

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1958年三重県生まれ。東京大学大学院農学生命科学研究科教授。専門は農業経済学。82年東京大学農学部卒業。農林水産省、九州大学大学院教授を経て2006年より現職。FTA産官学共同研究会委員、食料・農業・農村政策審議会委員、財務省関税・外国為替等審議会委員、経済産業省産業構造審議会委員、コーネル大学客員教授などを歴任。おもな著書に『食の戦争』(文春新書)、『悪夢の食卓』(KADOKAWA)、『農業経済学 第5版』(共著、岩波書店)などがある。

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