タリバンが次々危害「執拗に狙われる人々」の素性 諜報機関職員らの「ブラックリスト」が明るみに 

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さらにレターは「この召喚に応じない場合、あなたの代わりに家族が逮捕されることになります。あなたとあなたの家族はシャリア法に基づいて処罰されます」と結ばれている。

このレターが当てられた人物は、国際テロにも関わっているとされるタリバンの最強硬派「ハッカニ・ネットワーク」やイスラム国などによるテロ行為に関して、アメリカやイギリスと連携して調査活動に当たっていたとされており、タリバンはそれらの諜報活動に携わっていた重要人物を特に標的として、強く揺さぶりをかけているものとみられる。

国際機関と協力してきた人権活動家も標的に

国際機関と協力して活動してきた人権活動家のアブドゥルさん(仮名)も、初日に身の危険を感じて友人の家にかくまってもらったという。しかし、いよいよ身に迫る危険を感じるなか、ついに8月23日、ある先進国の援助で自宅まで車が手配され、家族を連れて空港へと文字どおり決死の脱出をしたという。

空港までの道中でこっそりと撮ったという唯一の写真には、囲いも屋根もない軽トラックのような車両の荷台に丸腰で乗っている妻と幼い子どもたちの姿が写っていた。数日前に国外退避のため空港まで向かった兄夫婦から、現地の危険な状況を耳にしていたことから、無事に空港内までたどり着くことができるのか不安を抱えていたのか、表情は固くこわばっているように見える。

アブドゥルさんも「私はタリバンの“ブラックリスト”に確実に記載されている」と言い、自宅にいると妻や子どもの身にまで危険が迫ることから、アフガニスタンの平和と安定を目指して活動してきた思いを道半ばで残し、祖国を後にすることになった。

ロイター通信は8月21日、タリバン高官が「野蛮な振る舞いがあることは把握しており、責任を持って対処する」と述べたと伝えている。アフガン全土掌握後、タリバンはアメリカへの協力者や政府職員らに対する「恩赦」を発表、融和的な姿勢を国内外に向け懸命に強調している。

しかし、あらゆる関係者らから明るみになってきている「ブラックリスト」の存在、そして重要人物やその家族の殺害などが事実であれば、恐怖政治が再来する。おびえる市民らのさらなる国外退避は免れず、事態はますます混迷を極めることになる。

海野 麻実 記者、映像ディレクター

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うんの あさみ / Asami Unno

東京都出身。2003年慶應義塾大学卒、国際ジャーナリズム専攻。”ニュースの国際流通の規定要因分析”等を手掛ける。卒業後、民放テレビ局入社。報道局社会部記者を経たのち、報道情報番組などでディレクターを務める。福島第一原発作業員を長期取材した、FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『1F作業員~福島第一原発を追った900日』を制作。退社後は、東洋経済オンラインやYahoo!Japan、Forbesなどの他、NHK Worldなど複数の媒体で、執筆、動画制作を行う。取材テーマは、主に国際情勢を中心に、難民・移民政策、テロ対策、民族・宗教問題、エネルギー関連など。現在は東南アジアを拠点に海外でルポ取材を続け、撮影、編集まで手掛ける。取材や旅行で訪れた国はヨーロッパ、中東、アフリカ、南米など約40カ国。

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