思春期の子にせこい損得勘定を刷り込む親の盲点 いま話題の「非認知能力」よりもっと大事なこと

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・思春期の時点で抱いていた「興味や好奇心を大切にしたい」という価値意識(内発的動機)が強いと、高齢期の幸福感が高まり、「金銭や安定した地位を大切にしたい」という価値意識(外発的動機)が強いと、幸福感が低くなることを明らかにしました。親の社会経済的地位や、本人の学歴によらず、この関係が認められました。
・若者に対して経済的な成功や安定を目指すように強調するよりも、自身の興味や好奇心をはぐくむ教育環境を作っていくことが、活力ある超高齢化社会の実現に向けて重要な対策であると示唆されます。

非認知能力もやり抜く力も幸せには関係ない

「興味や好奇心を大切にしたい」という価値意識(内発的動機)が強いというのは、「自分軸」がしっかりしていることにほかならない。さらに、報告書には「若い頃のさまざまな欲求や誘惑に負けずに自分をコントロールする力(自己コントロール力)は、成人した後の経済的な成功を左右しますが、幸福感の指標である人生を振り返った時の満足感(人生満足感)とは関係しません」とも記されている。

要するに、ヘックマン氏のいうところの非認知能力も、ダックワース氏のいうところのやり抜く力も、経済的な成功には寄与するかもしれないが、人生の終盤における幸福感には関係ないということだ。

論文の言わんとするところを私なりにまとめれば、子どもに本当に幸せになってほしいなら、せこい損得勘定を刷り込むなという話になる。

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いまどき「頑張って勉強していい大学に行っておかないとあとで苦労するぞ」と露骨に言う大人はさすがに減ってきているのではないかと思うが、「勉強だけじゃダメだ。非認知能力を伸ばさなければあとで苦労するぞ」「やり抜く力を鍛えておかないと将来成功できないぞ」とはつい言ってしまいそうだ。

しかし、将来の経済的・社会的な成功のために非認知能力やその親分格であるやり抜く力がいくら重要だとしても、それらを損得勘定に結びつけて子どもに伝えることは、その子の人生の幸せにとってはマイナスに働きかねないわけである。

そもそも正解がない時代において、旧来の価値観に染まった親の損得勘定など頼りにならない。わが子を心配する気持ちは痛いほどにわかるが、わが子への心配が、自らの損得勘定の投影にならないように、気をつけてほしい。

おおたとしまさ 教育ジャーナリスト

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Toshimasa Ota

「子どもが“パパ〜!”っていつでも抱きついてくれる期間なんてほんの数年。今、子どもと一緒にいられなかったら一生後悔する」と株式会社リクルートを脱サラ。育児・教育をテーマに執筆・講演活動を行う。著書は『名門校とは何か?』『ルポ 塾歴社会』など80冊以上。著書一覧はこちら

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