女性特有の悩みを解決する「フェムテック」の市場拡大に期待が高まっている。従来タブー視されがちだった課題にテクノロジーを活用することで参入しやすくなり、大手総合商社やメーカー、医療機関などが取り組む事業に経済産業省も補助金を拠出して支援する方針だ。
フェムテックは生理や妊娠、不妊治療、更年期障害などに関連した女性が抱える課題の解決や、生活の質向上につながる製品やサービスの総称として「Female(女性)」と「Technology(技術)」を組み合わせた造語だ。
フェムテック市場の成長を巡っては世界的に注目が集まっている。コンサルティング会社エマージェン・リサーチの試算によると、2019年から27年にかけて年率16%のペースで市場規模が拡大し、27年には600億ドル(約6兆6000億円)まで成長することが予測されている。スマートフォン普及率の上昇や遠隔治療の増加が背景にある。
特に米国が成長を主導しており、関連企業の資金調達額の伸びも目覚ましい。米ベンチャーファンドロックヘルスによると、同社がモニターする米フェムテック企業68社の21年の資金調達額は7月末までで9億1320万ドルと、12年の3800万ドルから急激に成長している。昨年は1件当たり2740万ドルだった平均資金調達額も今年は5370万ドルに倍増した。
経産省は6月、働く女性の望まない離職を防ぐ目的で、総額1億5000万円の補助金を拠出する20件のフェムテック関連実証事業を採択した。採択事業を運営する陽と人(ひとびと、福島県国見町)の小林味愛代表取締役は、フェムテック市場について「まだまだ投資家からは成長すると思われていない」と嘆く。
国家公務員として衆議院調査局などで働いた経験を持つ小林氏は、社会人1年目の10年から「女性活躍の根本を問いかけたい」と考えるようになり、17年に陽と人を設立した。自社ブランドのデリケートゾーンケア商品の販売も手掛ける同社は、採択事業を通じて福島県や地方などでフェムテック普及のための仕組みの構築やヘルスリテラシーの向上に取り組む。
男性優位の企業体質と見られることもある総合商社だが、丸紅が取り組む事業も採択された。同社はこの事業で、女性が働きやすい環境を実現するための女性の健康課題改善のプラットフォームの構築を目指す。
同社の広報部は、フェムテックへの参入に際し、役員も含め想像を上回る男性社員からの後押しがあったとコメントした。女性の健康分野に関連した新たな事業としての可能性に期待を寄せているという。
働く女性の健康問題の解決は経済効果をもたらす。経済産業省は、25年のフェムテックによる経済効果を約2兆円と試算する。生理に関連する不調に伴うパフォーマンス低下が軽減されることで2400億円、平均寿命が延びたことで誰もが経験するとも言われる更年期の症状軽減により約1兆3000億円の効果があると見込まれている。
同省経済社会政策室の村山明日香室長補佐は、補助金給付について「企業の競争力をつける」ことが狙いだと述べた。市場拡大の見込みについては「1年未満でカオスマップ(業界地図)の規模が倍増するなど、大きくなる傾向にあることは間違いない」と強調した。
経産省は実証事業の開始に合わせ、フェムテックサービスの提供に関心のある自治体や企業を集めたキックオフミーティングを5日に開催。村山氏はフェムテックについて発信できる好機となったほか、参加者の交流があったことで「ここと協業したいという風に言ってきてくれる方もいた」と振り返った。
テクノロジー活用の効果
また、女性の健康に関する話題はタブー視されやすい環境が残る中で、フェムテックとして「テクノロジーを挟むことによって女性の健康問題がドライに捉えられる」ことに期待していると話した。
シャープが取り組む実証事業ではIoT技術を用いた収納ケースで生理用品の残量を記録し、買い忘れや買いすぎを防ぐための仕組みを作る。環境問題との親和性が高いこともフェムテックの強みの一つだ。
そのため、環境に対する意識の高い若い世代にアピールしやすい分野でもある。行谷莉於さん(22)は布ナプキンについて、簡単に洗うことができ「新たに資源を使うことがまったくない」点が利点だと述べた。
今回の採択事業以外でも、フェムテックに参入する国内大手企業が現れ始めている。ファーストリテイリング傘下の衣料品ブランド「GU(ジーユー)」は3月、女性の健康を支援することを目的にした「GU BODY LAB」プロジェクトを立ち上げることを発表した。
英調査会社ユーロモニターインターナショナルのコンサルタント五来祐里氏は、GUが吸水機能を備えた下着などを手頃な価格で発売したことで「大きな反響を呼んだ」と評価。GUはオムロンの子会社オムロンヘルスケアと共同で、女性のヘルスケア関連商品を開発する計画も明らかにしている。
(経産省の担当者のコメントを追記して記事を更新します)
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著者:武藤珠代
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