独自の国際金融システムの構築には長期視点が欠かせないが、特筆できることが2つある。
1つは2015年に人民銀行がスタートしたクロスボーダー・インターバンク・ペイメント・システム(CIPS)の外貨決済システムで、人民元を中心にした独立した通貨システムだ。すでに900社以上の内外の銀行が参加し、日本や欧米の主な銀行も加盟している。CIPSにおける年間外貨決算総額は2016年に4.36兆元(約70兆円)だったが、2020年には、45兆元(約720兆円)になり確実に増えているが、まだドル基軸の通貨システムに挑戦できる状況ではない。
もう一つは日本でも話題に上るデジタル人民元の創設だ。来年初めに開催される、北京冬季オリンピックより正式導入が見込まれており、実現すれば世界最大の中央銀行のデジタル通貨になる。いま海外で懸念されるのは、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ会長がアメリカ議会の公聴会で発言した、デジタル人民元の創設により「ドル覇権が脅かされる」ことだ。
しかし現状では、その可能性は小さい。元来デジタル人民元は国内個人ベースの「現金」決済のシステムで、それだけでは人民元の国際化は実現しないからだ。一通貨の国際化にはその国の自由な為替政策と金融資産の流動性を保障する制度が必要で、それはデジタル人民元の創設とは別次元の話だ。
従って、今後海外でデジタル人民元が広まるケースは、中国経済の影響下にあり、人民元の直接使用も可能な一部の中央アジア諸国や東南アジア諸国に限られるであろう。
中国から「金融戦争」を仕掛ける合理性はない
西側諸国にとって最大のチャレンジは、デジタル人民元のブロックチェーンの技術やシステムのデファクト・スタンダードになるだろう。デジタル人民元の技術がスタンダードになれば、「データ保護のリスク」や「非ドル取引」の増加などが課題になるからだ。腰の重い先進諸国の中央銀行がデジタル通貨の研究、開発をスタートした理由だ。
このように中国は「ドル覇権打破」戦略の準備を怠らないが、現状は中国にとって厳しい状態が続く。このような状況では、中国から「金融戦争」を仕掛ける合理性はないと言っていいだろう。
(徳地立人/アジア・パシフィック・イニシアティブ シニアフェロー)
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