「暴言を吐くAI」「差別するAI」なぜ生まれるのか? AIの暴走を防ぐ「責任あるAI」と「AI倫理」

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また、本法案の非常に大きな特徴は、罰則規定まで定めている点です。違反すれば最大で3000万ユーロ(約39億円)、または全世界での売上高の6%の罰金を科される可能性があるとされています。

規制の動きは北米でも連邦取引委員会(FTC)が摘発に動き出すなど活発になっており、グローバルでサービス展開している企業にはそれら各国・地域の法整備・規制の状況もモニタリングしていく必要があります。

 ベースとなるのは「人間中心」のデザイン 

こうした動きの中でAIをビジネスとして活用・展開していくためには、AIが公正であること、透明性を有していることの担保が非常に重要になります。

そこでコアになる概念が「責任あるAI」です。「責任あるAI」とは、顧客や社会に対してAIの公平性・透明性を担保する方法論のことで、その考え方のベースにあるのは「人間中心」のデザインです。機械任せにするのではなく、人間が意思決定の中心となってAIの研究・開発・評価・展開を行うということが肝要です。

これは近年、人間参加型(Human-in-the-Loop)と呼ばれる設計思想にも相通ずるものです。

AI開発は、データの収集から訓練、評価・検証、フィードバックによる改善という流れをたどりますが、それらの活動がループとなり、データ収集~改善のサイクルが回り続けることが理想的とされています。このループの中に人間(Human)を介在させることによって、AIの判断とその制御を人間の手で運用していくという思想です。

人間がAIに頼る場面が多くなるからこそ、人間の判断とHuman-in-the-LoopによるAI開発がますます重要になっていくと考えられます。こうすることで企業はAIの持つリスクを正確に理解できるようになり、かつAIが持つ潜在的リスクへの対策を行うことでAIへの「信用」が生まれ、その「信用」が形成されて初めて人間はAIを「信頼」できるようになるのです。
この「信用」と「信頼」こそが、今後AIを自社のビジネスに応用・拡大利用するための必須条件になります。

「責任あるAI」の検討段階を含めて最初から適切な手法・体制を導入している企業・組織は、自信を持ってAIビジネスを拡張・拡大することができます。アクセンチュアの調査によれば、責任あるAIについての対策を講じている企業とそうでない企業と比較した場合、投資収益率で実に約3倍もの差があることがわかっています。今後AIに関連する企業・組織の社会的責任はますます大きくなってくるので、AIに混入しうる潜在的リスクを正しく理解し、「責任あるAI」の実現に向けてしっかり対応できているかどうかが、企業・組織の収益性をも左右するのです。

保科 学世 アクセンチュア株式会社 執行役員 データ&AIグループ日本統括

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ほしな がくせ / Gakuse Hoshina

アクセンチュア株式会社 執行役員 データ&AIグループ日本統括
アクセンチュアにてAI・アナリティクス部門の日本統括、デジタル変革の知見や技術を結集した拠点「アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京」の共同統括を務める。AI HUB プラットフォームや「AIPOWERED サービス」などの開発を統括すると共に、アナリティクスやAI 技術を活用した業務改革を数多く実現。著書・監修書多数。厚生労働省保健医療分野AI 開発加速コンソーシアム構成員など歴任。一般社団法人サーキュラーエコノミー推進機構理事。

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鈴木 博和 アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 AIグループ シニア・マネジャー

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すずき ひろかず / Hirokazu Suzuki

東京工業大学大学院情報理工学研究科計算工学修士課程、東京理科大学大学院イノベーション研究科技術経営修士課程修了。事業会社にて十数年におよびAIの研究開発・マネジメントおよびエネルギー・デバイス・メディカルなどの多領域での研究企画に従事。その後、IT系コンサル会社にて主に情報通信・流通・メディカル業界のクライアントに対し自然言語処理を中心としたソリューションのPoC~導入・運用支援を多数経験。現在はアクセンチュアにて、AI POWEREDサービスの一つ、AI POWEREDバックオフィスの開発・提案・デリバリーのリードを行いながら、さまざまなAI技術を活用した業務改革の実現に日々奔走している。

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