「中西君と1度だけぶつかった」川村氏が知る素顔 「仕事はやりがい」という生き方を貫いた中西氏

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だめなものをだめという人がいたり、社長の肩をたたいて「もう降り時だね」という人がいたりしないと、会社は最後にはおかしくなる。人間というものはものすごく出来が悪い生き物で、最後は自分に全権を集めて、人を支配したり、金を自分の懐に入れたりするものなのだ。「企業さらに社会を悪くするのは、青年の失敗ではない、老人の跋扈だ」と喝破した伊庭貞剛(住友財閥の経営者)のような人は今は極めて少ない。

しかも、経団連会長には人事権がない。給料の決定権もない。それで何ができるのかと……。中西君にもそう言ったんだが、彼は「そうしたものは最後には手に入る。手に入らなくてもだんだん日本の会社が変わっていけばいい」。彼らを変えようと思った中西君の気迫はすごかった。経済から日本を直すチャンスだと思って引き受けたんだと思う。

なぜ、重責を引き受けるのか

欧米はリーマンショック後もGDP(国内総生産)が堅実に上がり続けている一方で、日本は停滞したまま増えない。戦後復興期から1980年代までの35年も高度経済成長が続いた黄金期の記憶がいまだに強く残っているからだろう。そして、成長が止まった後も競争を望まず、痛みの伴う改革に取り組まなかった結果、「熱意なき職場」が日本企業に蔓延してしまったからではないだろうか。

海外で研究所を視察すると、一研究員が「自分の研究対象はこれこれこうで、世に出た暁には○億ドルの利益となり、シェアも○%アップします」などと熱っぽく話してきて感心する。日本の研究所は静謐すぎて、私の目にはそれが消極的に映る。残念ながら日立も例外ではない。まずは各社が、そして続いて経団連が熱意ある職場を取り戻すために本気で動いたら、日本も変わると思うのだが――。会社だけでなく大学、官庁、労働組合、メディア……あらゆるところで荒療治が必要だ。

2018年からは経団連会長も務めた中西氏(左)。写真は就任会見時(撮影:梅谷秀司)

経団連会長は別として、私も日立の再生、その後は東京電力ホールディングスの社外取締役会長を引き受けた。なぜ火中の栗を拾うのかと聞かれれば、「どうしてあそこで引き受けなかったのか」「一歩踏み出さなかったのか」という後悔は一生引きずると思うからだ。

私は映画『男はつらいよ』のファンだが、寅さんはなぜリリーと所帯を持たなかったのかは疑問に思う。結婚したら家庭はぐちゃぐちゃだったかもしれないが(笑)、寅さんも実は、一歩踏み出さなかった後悔のほうが大きいんじゃないか。

後輩たちや若い世代にも「本当の機会が来たら、つかまえなさい」と言いたい。東原君(敏昭・現会長)が中西君の次の社長に選ばれるとき、最初はかなり迷ったそうだ。中西君が「川村さんの意見を」と言うんで、2人きりで話した。誰でも、社長になるのは怖いものだ。東原君には「失敗したって命まではとられないから、やってみろ」といって激励した。東原君は社長になり、国際化の充実のほかDX化、CX化を着実に進めてきた。

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