乙武:もうひとつは僕の生まれつきの性格が、目立ちたがり屋だったこと。車イスに乗っていて、ましてや手足がないとなると、みんな僕を見ますよね。誰が悪いとかじゃなくて、物珍しいものには自然と目が向くのが人間の本能だから。でも、普通は自分が目立つのは「いやだ、恥ずかしい」という人が多いし、おそらくお兄様もそうだったのだと思います。
そうすると街に出るのがおっくうになったり、「この人は自分に対してどういう視線を向けるんだろうか」と、他人の様子をうかがうようになってくる。これは当然だと思うんですよね。
湯浅:そうかもしれないですね。
乙武:ところが僕の場合は小さい頃から、目立ったり、注目を浴びたりすることが嫌ではなかった。だから「じろじろ見られて大変だったんじゃないですか」「嫌な思いをされてきたんじゃないですか」とよく聞かれるのですけど、どちらかと言えば「目立ってうれしい」くらいに思っていたんですよね。
湯浅:ほう。物心ついたときから目立つのが好きだったのなら、それって先天的なものなんですかね。
乙武:そうかもしれません。この2つは僕の自己肯定感の形成に、決定的に大きかったと思います。
湯浅:本にはずっとそのままで大人になったと書いてありますが……。
障害者であるより、有名人であるほうが大変
乙武:もっと正確にいうと、『五体不満足』(講談社文庫)がベストセラーになるまでは、視線を浴びることへの抵抗は特になかったのです。障害者であるということを差し引けば、普通に生きてきたわけですから。ところが、自分がいわゆる“有名人”になると、視線の質が変わってくるのです。
湯浅:どう変わりました?
乙武:今までは「未知との遭遇」みたいな視線を向けられてきた。それに対しては何の抵抗も感じていなかったのですが、今度は「既知との遭遇」になるわけです。「ああ、あの乙武さん」だと。そして一方的に写真を撮られたり、サインをせがまれたりするようになった。
湯浅:しんどかったんじゃないですか?
乙武:一般の方からお声がけいただくのはまだよかったのですけど、出版後、しばらくは週刊誌にずっと張られていて、家の前3カ所くらい、あっちの電信柱とこっちのコインランドリーに誰かがいてこっちを見ている。つねに監視をされているような感覚。
湯浅:それはつらい。
乙武:そういう生活が1年、1年半と続いたとき、原因不明の頭痛と吐き気に悩まされるようになりました。病院に行ってひととおり検査しても原因がわからなくて。
湯浅:そこで初めて、目立つことの大変さを知ったということですね。
乙武:目立つって、そう楽なことばかりでもないな、と(笑)。
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