「リベラルであること」の難しさとは何か? 湯浅誠×乙武洋匡 リベラル対談(前編)

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湯浅:これは健康と同じで、失ってみないと気づかないというか、私や乙武さんみたいにきっかけがないと気づけない。そのためにも、いわゆるリベラルな価値観を広めていく必要があると思うのです。乙武さん自身はそれをどうやって伝えていこうと思っていますか。

乙武:そうですね。最近、リベラルの難しさをすごく感じるんですよ。たとえば、ものすごく右傾化した人々や何か強い主張を持った人々には、相手を否定することで自分たちの主張をより際立たせるという手法をとっている方が多い。

僕はリベラルという言葉へのこだわりはないけれど、自分自身のスタンスとしては、やっぱり多様性を認めるということを強く伝えていきたい。しかし、「多様性を認めるべきだ」と主張してしまうと、自分とは「相いれない主張も、多様性のひとつとして認めなければいけない」というジレンマが出てくるわけですよね。

湯浅:そこは、リベラルの基本的なジレンマですよね(笑)。

乙武:相手はこちらを否定してもいい。でも、こちらが相手を否定することはできない。これは、すごく不利だなと。では何を論拠に「伝えていくのか」を考えると、やはり個人的な経験が論拠になるのかな。僕の場合、それこそほかの方には逆立ちしてもできない経験を積み重ねていますし、ほかの方には見えない景色も見てきたでしょうから、少しは説得力のある話ができるかもしれない。それが今のところの自分のスタイルですね。

「多様性を否定する人」も認めるつらさ

湯浅:リベラルが不利だというのは、おっしゃるとおりです。「多様性を否定する人を肯定するのが、多様性を認める」ということですからね。それって、ただつらいだけじゃないかって(笑)。

乙武:そうなんですよね(笑)。すごく難しい。

湯浅:そのドツボにはまらないためには、感情や経験に基づいた話をするのがいいかもしれない。自分がそうだったという事実を相手は否定も肯定もできないわけで、論争にはなりませんよね。それをやっていく意義は大きいと思います。大きいと思いますが、その次のステップをどうするかという問題があります。

たとえばリベラルな価値観を守るような制度・政策を作ろうという話になったら、自分の経験や感情から話を立ち上げつつも、論争的な領域に入っていかざるをえないじゃないですか。そうなったときは、どうしますか。

乙武:正直、これといった答えを見つけられてはいません。今までの僕の活動領域では、先ほどもお話していたように、自分の経験を論拠にしていればよかった。つまり自分はこんなふうに生きてきました。自分から見えた景色はこういうものでした。それを、メディアを通して伝えていくことで、何か考えるきっかけを得る人がいたり、生きるためのヒントをつかんでくださる方がいたり、それで完結していたんですね。

ただ私自身の視点が、私個人から教育という分野に移り、さらに教育から社会というものに移っていくと、その手法だけではどうしても限界がある。それは、まさに最近、感じつつあることなのですよ。

湯浅:乙武さんが、社会活動に本気でここまでかかわろうとしている話を聞くのは心強いですね。

(構成:長山清子、撮影:今井康一)

※後編は、こちら → なぜ、あえて「カタワ」という言葉を使うのか
湯浅 誠 社会活動家、法政大学教授

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ゆあさ まこと / Makoto Yuasa

1969年、東京都生まれ。東京大学法学部卒。2009年から足掛け3年間、内閣府参与に就任。内閣官房社会的包摂推進室長、震災ボランティア連携室長など。政策決定の現場に携わったことで、官民協働とともに、日本社会を前に進めるために民主主義の成熟が重要と痛感する。現在、朝日新聞紙面審議委員、日本弁護士連合会市民会議委員、文化放送「大竹まこと ゴールデンラジオ」レギュラーコメンテーター。2014年度から法政大学教授。講演内容は貧困問題にとどまらず、地域活性化や男女共同参画、人権問題などにわたる。著書に、第8回大佛次郎論壇賞、第14回平和・協同ジャーナリスト基金賞受賞した『反貧困』のほか、『ヒーローを待っていても世界は変わらない』など多数。

 

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