「フィデリオ」から200年、戦いはなお続く 自由を求める戦いは、勝利を収めていない

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中米やコートジボワールやパキスタンでは、拷問が行われている。エジプトでは、特にジャーナリストが、公然と嫌がらせを受けている。ロシアとウガンダでは、同性愛者が迫害されている。人身売買は、先進国にも蔓延している。ナイジェリア北部では、キリスト教徒の若い女性たちが誘拐されている。そして多くの国々で、政治的反体制派が(まるで「フィデリオ」の囚人たちのように)監禁状態に置かれ、もっとひどい扱いを受けていることもある。法の支配を保証する公開の手続きが無視されているのだ。

外交政策で人権をどこまで考慮するかは、民主制国家で意見の割れる問題だ。どの国も他国に教訓を垂れる資格があると考えがちだが、そうでない場合も多い。たとえば米国にもグアンタナモ基地での人権侵害問題などがある。

一貫性の有無も問題だ。ある国の人権問題については強硬な態度をとる一方で、ほかの国の人権問題については目をつぶるようでは信頼は置けない。

EUは地中海地域の経済・政治的な協力関係を築こうと努め、協定を結ぶ際に、財政支援と貿易自由化を、人権向上と民主制発展と同程度にリンクさせることにした。ところが、一部の国々には目こぼしする傾向が見られ、方針は頓挫した。一部のEU加盟国は、囚人に対する拷問で知られている国との2国間協定に、人権条項を盛り込むよう主張する一方で、その国へのテロ容疑者の引き渡しではひそかに協力したのではと多くの人々が見ているのだ。

香港では自由を求めるデモ

私が「フィデリオ」に感動したのと同じ日に、香港では何万人(主催者側によると何十万人)もの人々が自由を求めてデモを行った。彼らが求めるのは、自らの政府を選挙で選ぶ、公正で開かれた制度であり、彼らが守ろうとしているのは香港を最もビジネスがしやすい伝統的な意味で真にリベラルな社会にまで成長させた、自由と法の支配なのだ。

ゆくゆくは香港の人々は自らが望むものを手に入れるだろう。自由は最終的には必ず勝つ。中国の指導者たちは、人々のこのような願いは中国の繁栄に脅威を与えるものではないと理解し、大きな一歩を踏み出すことになるだろう。

偉大な国であり発展を続ける中国。しかし現状では、政治課題への取り組みより、経済問題への対処のほうで洗練された確かな手腕を発揮している。

週刊東洋経済2014年8月9-16日合併号

クリス・パッテン 英オックスフォード大学名誉総長

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Chris Patten

元英国保守党議員で最後の香港総督。欧州委員会外交専門部会委員、英オックスフォード大学総長を歴任。

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