1997年7月1日、私は英国王室のヨットで香港を離れた。私が総督を務めていた香港は、英中共同声明に基づき、中国に主権移譲された。声明は、香港の基本的な制度は、鄧小平小平が掲げる「一国二制度」の下で、将来50年にわたり維持されると保証した。法の支配、多元主義と結び付いた自由(言い換えれば、適正手続きと言論・集会・信仰の自由)は、主権移譲後も香港の繁栄と安定の基盤として維持されるはずだった。
フィデリオの普遍性
くしくも今年2014年の7月1日、私は英国でベートーヴェンの傑作「フィデリオ」を鑑賞した。これはベートーヴェンが完成させた唯一のオペラであり、ナポレオンがアウステルリッツの戦いに勝利した1805年に書かれ、ナポレオンが退位した1814年に改訂された。人間が生来持つ価値観(自由の追求と専制政治に対する反感)を芸術的に表現した最高傑作の1つで、どの国でも人々の共感を呼ぶ。
「フィデリオ」の中で最も印象的なのは、政治犯たちがつかの間、地下牢から解放される場面だ。囚人たちは歌う。「おお神よ。救いを、喜びを、自由を、主はわれらに与え給うか」。このとき、まさに沈まんとする夕日が照りつけ、舞台も観客も一体となって深い感動に包まれた。
ベートーヴェンがこのオペラを作曲してから200年が経つ。この間の歴史は、植民地帝国に対する戦い、基本的人権を求める運動、現代の全体主義・独裁主義政権に対する抵抗など、自由の追求を中心に展開した。全体として自由は勝利したが、戦いはまだ終わってはいない。
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