「規制か緩和か」中国が直面しているジレンマ 成長し続ける「中国デジタル革命」の陰とは

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また、中国ではデータに基づく消費者差別という異種のデジタルデバイドも生じている。例を挙げると、iPhoneを持つ消費者と比較的安いスマホを持つ消費者が配車アプリで同じ距離の乗車を求めたのに、提示される料金が違う。iPhoneユーザーのほうが高く、iPhoneの所有や過去の購買履歴などのデータをベースに「お金持ちの消費者」と判断されたからだ。

規制強化でルールの厳格な適用へ

プラットフォーマーがもたらした市場独占も個人情報の乱用も世界共通の重要課題で、中国にしても、いずれ急進展を遂げているデジタル化の歪みだと認識すべきだろう。

中国政府はこれまで、緩い規制によってデジタル産業の成長を後押ししてきた。規制を最小限に留めることが新たなイノベーションの創出につながると考えたためだ。

一方で、前述したような問題で社会不満が爆発し、デジタル時代にも適切な規制が必要という意識が高まりつつある中、雇用や税収、消費に貢献している巨大プラットフォーマーに対する規制、また、データ活用に関する規制を強化すべきか否か、中国はまさにそのジレンマに直面していた。

ここに来て、規制強化の“逆風”が一層強まっている。2020年末に行われた中央経済工作会議では、独占行為に対する監督が2021年の経済運営の重要なタスクの1つになっている。初めてのことだ。

データ活用に関しても、7月中旬に深圳市がデータ管理に関する中国初の総合的な条例として「深圳経済特区データ条例」を公布した。同条例は個人情報の過剰収集や乱用、消費者差別などを禁止するという。さらに9月から中国全土で「データ安全法」が施行される予定で、データ管理規制を強めようとしている。

中国のデジタル革命がもたらしている負の側面が今後も顕在化し、ネットビジネスやデジタル関連業界に対して、従来の成長一辺倒ではなく、規制強化でルールの厳格な適用を求めるようになってくるだろうが、それでも中国ではデジタル技術の社会実装という壮大な実験は続くと思われる。

趙 瑋琳 伊藤忠総研 産業調査センター 主任研究員

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チョウ イーリン / Weilin Zhao

中国遼寧省出身。2002年に来日。2008年東京工業大学大学院社会理工学研究科修了、イノベーションの制度論、技術経済学にて博士号取得。早稲田大学商学学術院総合研究所、富士通総研を経て2019年9月より現職。情報通信、デジタルイノベーションと社会・経済への影響、プラットフォーマーとテックベンチャー企業などに関する研究を行っている。論文・執筆・講演多数。著書に『BATHの企業戦略分析―バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイの全容』(日経BP社)。

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