菅首相、「金メダルラッシュ」でも回復せぬ支持率 感染者は過去最多に、宣言延長で五輪に疑問符

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1万人を超えた全国の新規感染者数も減る気配はない。ワクチン接種による高齢者の感染者激減にもかかわらず、重症者数もじりじり増え、一部地域では医療崩壊が始まっているとされる。

こうした状況を踏まえ、日本医師会などは29日、「新規感染者の増加で、医療の逼迫が迫っている」などとする緊急声明を発表。政府に対し、緊急事態宣言の対象区域を全国にすることも検討するよう要請した。

「ワクチン1本足打法」は限界に

しかし、今のところ政府の反応は鈍い。「菅首相の強気に関係閣僚が忖度しているのが原因」(自民長老)との指摘もある。ただ、「それが国民の不信と不満を加速させ、支持率低下につながる」(同)という悪循環に陥る原因ともみえる。

菅首相とタッグを組む五輪主催者の小池百合子都知事は、五輪開催が感染爆発につながるとの批判に、「逆にステイホーム率を上げてくれている」と強弁したが、ネット上では「あまりにもひどい言い訳」などと大炎上した。

専門家を代表して記者会見などで発信を続ける尾身氏も、29日の参院内閣委で免疫をもっていない人にも予防効果が及ぶ集団免疫について、「仮に国民の70%に(ワクチン接種を)したとしても、残りの30%の人がプロテクトされることでは残念ながらないと思う」との見解を示した。

現状をみる限り、菅首相の「ワクチン1本足打法」には限界が目立ち始めている。ここにきて専門家の中からは、8月末まで期限延長となった緊急事態宣言の再延長を求める声も出る。そうなれば、なんとかパラリンピック閉幕にこぎつけたとしても、「9月上中旬の衆院解散も政治的に不可能」(閣僚経験者)となる。

強気を装う菅首相自身も「毎日、不安で心が揺れている」(周辺)ことは隠せない。「何とか窮状を乗り切って、衆院選勝利と総裁再選につなげるか、それとも国民の批判の嵐の中で行き倒れとなるのか」(首相経験者)。菅首相にとって当分は「緊張の昼間と寝苦しい夜」(同)が続きそうだ。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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