答えはシンプルで、奈良県内の(といっても鉄道が通っているのは県北部の奈良盆地内にほとんど限定されているのだが)鉄道ネットワークは大部分が近鉄によって構成されているからである。
件の近鉄京都線は京都と奈良を結ぶ。そして大和西大寺駅を奈良盆地北部の要衝として、近鉄奈良線が大阪は難波と奈良を結び、南に降りる橿原線は大和八木・橿原神宮前という奈良盆地南部の要衝を抱える重要路線。大和八木駅では近鉄大阪線と接続しており、大阪はもちろん遠く伊勢志摩、名古屋までも結ばれる。
橿原神宮前駅ではこれまた近鉄南大阪線と吉野線と乗り換えられる。大部分が標準軌(レールの幅が1435mm、新幹線と同じだ)の近鉄の路線において、南大阪線や吉野線は狭軌(レール幅1067mm、こちらはJRの在来線と同じだ)。つまり近鉄の中では異端児といえる立場だが、存在感は大きい。
何しろ、大阪方の起点は大阪阿倍野橋、つまりあべのハルカスのふもとにある。地上60階、高さは実に300mの日本一高いビル。東の東武がスカイツリーだとすれば、西の近鉄はあべのハルカスがシンボルだ。
奈良盆地は“近鉄ワンダーランド”
と、あべのハルカスについては本題とは逸れるのでこれくらいにしておくが、とにかく近鉄は3路線(けいはんな線という路線もあるがこれこそ異端児なので脇においておく)が奈良と大阪を結び、京都線が奈良と京都を結び、そして大阪線は奈良と三重の伊勢志摩・名古屋までを結んでいるのだ。そしてこれらの主要路線の合間を縫うようにして、近鉄のローカル線が奈良盆地の中をゆく。たとえば田原本線、たとえば天理線、たとえば生駒線、たとえば御所線。
すなわち、奈良盆地内と、その外を結ぶネットワークのほとんどを近鉄がカバーしているということだ。近鉄と聞けば大阪の通勤電車、というイメージを持っている人も少なくなかろう。また、「ひのとり」や「しまかぜ」といった近鉄特急もよく知られる。近鉄特急の世界においては、奈良県内はほとんど通過するのみだと思われてしまうかもしれぬ。だが、むしろ奈良こそがめくるめく近鉄ワールドなのだ。
奈良県、奈良盆地を近鉄ワンダーランドにした決定的なポイントは、京都もそうだがむしろ大阪との連絡の充実にあるといっていい。奈良に都があった時代(平城京、そしてそれ以前の古代ヤマト王権の時代を含む)から、周囲を山に囲まれた奈良盆地はいかにして海のある難波に出るかが問題だった。
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