ジョブズ存命でも、アップルの進化難しかった 『沈みゆく帝国』著者、ケイン岩谷氏に聞く(前編)

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――ジョブズが生きていても難しかった?

難しかった。大企業としての課題が増えてきている中で、ジョブズのようなリーダーを失ったのは、アップルにとって二重の痛手だっただろう。グーグルだけでなく、フェイスブックやアマゾン、(オンライン配信の)ネットフリックスなどに加え、アジアを見ればサムスンやレノボ、(格安スマホメーカーの)シャオミも台頭している。これらの会社のほとんどは創業者が会社にいる。創業者が会社にいるのといないとでは、大きく違う。創業者だからこそ、取れるリスクというものがある。

「クック色」がようやく出てきた

――現CEOのティム・クックは5月に(ヘッドフォンなどを手掛ける)ビーツ・エレクトロニクスの買収を発表したり、7月にはかつてのライバルだったIBMと提携したりするなど、徐々に自分の色を出してきています

けいん・いわたに・ゆかり 1974年東京生まれ。ジャーナリスト。3歳時に渡米、シカゴなどで幼少時代を過ごす。ジョージタウン大学外交学部卒業後ロイターのワシントン支局や東京支局などを経て、06年ウォール・ストリート・ジャーナルに。08年サンフランシスコ配属、アップル担当として活躍。退職後、現在は書籍執筆に専念。東京支局時代にソフトバンクを取材したことも

確かに、新しい方向に踏み出し始めていると思う。11年8月にクックがCEO職に就いてから、クックは「アップルは変わらない」というメッセージを出していたが、結局は変わってしまい、中途半端な状態だった。しかし、ここ数カ月の動きはようやく自分らしい、業務のプロであるクックらしいアップルになってきた。ジョブズとクックを比べるアップル社員はまだ存在するが、少なくともクック自身はジョブズの亡霊から、吹っ切れつつある。クックがジョブズのようになろうとしてもなることはできないので、クックらしいアップルになることはいいことだ。

特に今回のIBMとの提携に注目している。アップルがBtoBに販路を開くことは、陰の部分だったビジネスオポチュニティが広がることになる。これからどう成果となっていくのかは、見物だ。ジョブズはアップルがスタートアップであり続ける環境をあまり残さなかったが、クックはチャレンジしている。

――ジョブズは経営幹部向け研修プログラムである「アップル・ユニバーシティ」を設立したが、機能しなかったのか。

素晴らしい試みだが、スタートアップというよりも、アップルの中でリーダーをどう育てるかという目的で設立された。例えば優秀な経営者が死去し、今はほとんど、陰も形もない状態となっているスーパーマーケットのA&Pを授業の題材として取り上げたのは、アップル経営幹部の危機感の表れだ。ソニーのように凋落してしまう可能性は、アップルが一番わかっている。その意識があるだけ、まだ良いのかもしれない。

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