成長しなくても繁栄できる「ドーナツ経済」の正体 新しい経済モデルへの大転換めざす7つの思考法

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(出所)『ドーナツ経済』(河出書房新社)

第3は、「人間性を育む」。20世紀の経済学の中心には、合理的な経済人の肖像が掲げられている。この合理的な経済人によれば、人間は利己的で、孤独で、計算高くて、好みが一定で、自然の征服者として振る舞うという。これまでわたしたちはこの肖像の影響下で、自己を形成してきた。しかし人間は本来、それよりもはるかに豊かだ。人間は社会的で、互いに頼り合っていて、おおざっぱで、価値観が変わりやすく、生命の世界に依存している。それだけではない。ドーナツの安全で公正な範囲にすべての人を入れるという目標の実現性を大幅に高められるようなしかたで、人間性を育むことも可能だ。

第4は、「システムに精通する」。経済学部の学生が最初に出会う図は、市場の供給曲線と需要曲線が交差したあの有名な図だ。しかしその図は19世紀の誤った力学的平衡の喩えにもとづいている。経済のダイナミズムを理解する取っかかりとしては、そのような図よりも、シンプルな1組のフィードバックループで表せるシステム思考の図のほうがはるかに役に立つ。

経済学の中心にそのような動的なシステムを据えることで、金融市場の急変動から、経済格差の拡大をもたらす構造や、気候変動の臨界点まで、さまざまな問題について新しい洞察が生まれるだろう。わたしたちは経済を思いのままに操作できるレバーなどというありえないものを探すのを止めて、経済をたえず変わり続ける複雑なシステムとして管理し始めるべきだ。

分配を設計し、環境再生を創造する

第5は、「分配を設計する」。20世紀には、不平等は初めのうちは拡大するが、やがて縮小に転じ、最終的に成長によって解消されるだろうといわれていた。この説を強力に支えたのは、1本の単純な曲線──クズネッツ曲線──だった。しかし現在では、不平等は経済に必然的に伴うものではないことがわかっている。不平等が生じるのは、設計の失敗による。

21世紀の経済学者は、経済から生まれる価値を今よりはるかに広く分配できる方法がたくさんあることに気づくだろう。代表的な方法の1つはフローのネットワークだ。フローのネットワークでは、単なる所得の再分配ではなく、富の再分配──特に土地や企業、技術、知識を支配する力から生じる富の再分配──とお金を生み出す力の再分配の方法が模索される。

第6は、「環境再生を創造する」。「きれい」な環境はこれまで長らく経済理論のなかで贅沢品扱いされてきた。裕福な社会にだけ許されるものだ、と。このような見かたを支えたのもやはりクズネッツ曲線だった。環境汚染は初めのうちこそ悪化するが、やがて収まり、最終的には成長によって一掃されるという理論だ。しかし現実にはそんな法則はない。環境の破壊はあくまで破壊的な産業設計の結果だ。21世紀には、循環型──直線型ではなく──の経済を創造し、地球の生命循環のプロセスに人類を完全に復帰させられるよう、環境再生的な設計を生み出せる経済思考が求められる。

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