成長しなくても繁栄できる「ドーナツ経済」の正体 新しい経済モデルへの大転換めざす7つの思考法

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経済学のベテランと初学者を問わず、今、しなくてはいけないのは、わたしたち全員の心にどういう落書きがあるのかを明らかにして、もしその落書きが好ましくないものなら、消し去ることだ。あるいはもっといいのは、わたしたちの時代にほんとうに役に立つ新しい絵を描いて、その落書きを塗りつぶすことだ。

ここでは21世紀の経済学者にふさわしい7つの思考法を提案したい。これまでどういう誤った図が支配的な影響力を持っていたのか、またどういう害悪をもたらしたのか。ただし単に批判するだけでは前へ進めない。人類の進むべき方向を示す新しい図を築く。その目的は、古い経済の考えかたから新しい経済の考えかたへの大転換を促すことにある。7つの図によって21世紀の経済学者に新しい全体像を提示することができるだろう。ではひととおり、ドーナツ経済学の核をなす考えと図を簡単に紹介しよう。

目標を変え、全体を見る

第1は、「目標を変える」。経済学は70年以上にわたって、国内総生産(GDP)を前進の指標とすることに固執してきた。所得や富の極端な不平等も、生活環境の前例のない破壊もその固執のなかで黙認された。21世紀はGDPよりはるかに大きな目標を必要としている。それはこの惑星の限りある資源の範囲内で、すべての人が人間的な生活を営めるようにするという目標だ。

ドーナツにはこの目標が組み込まれている。そこで課題になるのは、ドーナツの図の安全で公正な範囲にすべての人が収まる経済──ローカルでも、グローバルでも──をいかに築くかだ。わたしたちは果てしないGDPの成長をめざすのでなく、バランスの取れた繁栄の道を探るべきときに来ている。

第2は、「全体を見る」。主流派の経済学は、きわめて限定的な図であるフロー循環図のみで、経済の全体を説明しようとする。しかもその視野の狭さを逆に利用して、市場の効率とか、国家の無能さとか、家計と家内性とか、コモンズ(共有地)の悲劇とかについて、新自由主義的な主張を展開している。

21世紀にはそのような偏った見かたを脱して、新しい経済の全体像を描く必要がある。そこでは経済は社会や自然のなかにあるものとして、また太陽からエネルギーを得ているものとして描かれなくてはいけない。新しい全体像からは新しい言葉が生まれる。市場の力も、家計の大事な役割も、コモンズの創造性も、新しい視点から語られるだろう。

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