成長しなくても繁栄できる「ドーナツ経済」の正体 新しい経済モデルへの大転換めざす7つの思考法
第7は、「成長にこだわらない」。経済理論のなかにこれまで一度も実際に描かれたことのないきわめて危険な図が一つある。それは長期的なGDPの成長を示す図だ。主流派の経済学では終わりのない経済成長が不可欠のことと見なされている。しかし自然界に永遠に成長し続けるものはない。だからその自然の摂理に逆らおうとする試みは、高所得・低成長の国々で根本的な見直しを迫られている。
GDPの成長を経済目標から形だけ外すことは、むずかしくないかもしれない。しかし成長依存を克服するのは、易しくはないだろう。現在の経済は、繁栄してもしなくても、成長を必要としている。わたしたちに必要なのは、成長してもしなくても、繁栄をもたらす経済だ。そのような発想の転換ができれば、成長への盲信が消える。さらには、金銭面でも、政治面でも、社会面でも成長依存を呈している今の経済を、どうやって成長してもしなくても動じないものに変えられるかを探れるようになる。
根本から考え直そうとするときの土台になる
21世紀の経済学者にふさわしいこれらの7つの思考法は、具体的な政策や制度を提案するものではない。今後実行すべき対策は何かという問いに対して、直接的な答えや完璧な答えを約束するものでもない。それでも21世紀に求められている経済学について、根本から考え直そうとするときの土台になることは確かだ。
7つの思考法の原則やパターンは新しい経済学者たち──とわたしたちみんなの内面の経済学者──に、すべての人が豊かになれる経済を創造するための道具を与えるだろう。わたしたちがこれから数年後までに経験するであろう変化の速さや大きさ、不確かさを考えるなら、将来のすべての政策や制度を今決めてしまうのは無謀だ。
次世代の人々のほうがわたしたちよりもずっと、試行錯誤から最善の方法を見出すのには適任だろう。状況は刻々と変わるのだから。わたしたちが今できること──するべきこと──は、新しいアイデアのなかから最良のものを選んで、組み合わせ、新しい経済の思考法を確立することだ。ただしその思考法は固定したものではなく、つねに進化し続けるものになるはずだ。
これらの7つの思考法を実際に生かすとともに、そこにさらに多くの考えをつけ加えることが、今後数十年の経済学の課題になるだろう。
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