アメリカ主導の超ド級金融相場ついに終盤戦へ <専門家3人に聞く>株式市場の行方とリスク

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英国本拠の資産運用会社HSBCアセットマネジメントでグローバル・チーフ・ストラテジストを務めるジョー・リトル氏は、「世界の株式市場は今年後半にはアメリカ中心にこれまでとは違う環境に突入する」と語る。

「アメリカ株は全般にバブルではない」とし、「まだ上昇する余地はある」と指摘。ただ、「今後は景気が回復期から拡大期へ移行するにつれ、経済成長率の伸びはピークアウトし、株式投資家にとっては比較的厳しい環境になる」。今年後半はS&P500指数で5%程度の上昇にとどまり、来年も配当を含めたトータルリターンで6~7%程度と見込む。

米企業収益はなお力強い回復が見込まれるが、「その大部分が株価に織り込み済み。将来から投資リターンを盗んでいるようなもの」と表現する。大規模な金融・財政政策のサポートも規模縮小の方向にあり、PER(株価収益率)を押し下げる要因になるという。

国家の役割増大がインフレを高める

昨今の米長期金利の低下については「一種の謎」としつつ、こう分析する。「1つには、6月のFOMC(連邦公開市場委員会)を受け、市場はFRB(連邦準備制度理事会)が政策を間違え、利上げを早く実施しすぎて景気を停滞させるシナリオを想定した。加えて、それまで長期金利上昇を見込んでリフレトレードをしていた投資家の大量のポジションが巻き戻されたというテクニカル要因もある」。

しかし、今の米長期金利は景気拡大を十分に織り込んでおらず、今後発表される景気指標もそれほど悪くないことから、「長期金利は来年前半にかけ2%近くまで緩やかに上昇する」と予想する。

Joe Little●JPモルガン・カザノブを経て2007 年にHSBC入社。エコノミストとストラテジストのチームを統括し、CIOやグローバル投資チームと協働。金融メディアにも頻繁に登場する(写真・本人提供)

足元の高いインフレ率については、「低水準だった前年からの反動や商品価格の上昇、供給制約といった一時的要因が大きく、来年前半にかけ剥落する」と想定。ただ、「その後は労働市場の改善と家計・企業のインフレ期待が牽引役となり、今後5~10年は2~3%のインフレ率が見込まれる」と見る。2%未満が大半だった2010年代とは一線を画すものだ。

その変化の要因についてリトル氏は「ミッション・エコノミー」という言葉を挙げる。これは「環境にやさしく社会包摂的な経済成長と高水準の投資を促進するために、国家がより大きな役割を果たす経済」を指す。格差是正を標榜するバイデン政権の積極財政政策はそれを代表するものだ。ただ、こうした経済への転換はインフレリスクをはらむとともに、増税を財源とすることで企業収益を圧迫するリスクがあると指摘する。

FRBのテーパリングについては8月下旬のジャクソンホール会議か9月のFOMCで計画が発表され、10~12月の間で開始されるとの見方。住宅市場が過熱気味なため、「RMBS(住宅ローン担保証券)の買い入れ縮小から始められる可能性がある」。利上げ開始についてはFRBが「平均インフレ目標」を掲げていることから時期が遅れ、2023年後半と読む。

こうした環境下でリトル氏は、株式では相対的に割安感のある欧州、ASEANに注目。景気循環銘柄の多い日本株にはやや警戒的という。また、中国人民元建て債券を含めたアジアの債券を推奨。グリーン社会への移行を背景に、銅などの鉱産物や自然資本への需要が高まるとみている。

中村 稔 東洋経済 編集委員
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