豪雨災害を河川と下水道の整備だけで防げない訳

人々の暮らしを守りながらの「流域治水」が必要だ

大量の雨が溢れかえってしまう構造に注目したうえで対応していかねばなりません(写真:kumikomini/iStock)
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線状降水帯による局所的な集中豪雨により、静岡県熱海市で大規模な土砂災害が起こりました。「流域思考」の重要さを提唱する慶応義塾大学名誉教授の岸由二氏は、小流域に降った大雨が、生活圏に被害を及ぼさないよう適切に集水されていなかったことが、そもそもの基本要因と語る。大量の雨が降っても、人々の暮らしが脅かされないようにするためには旧来の治水ではなく、流域治水が必要だという岸氏による新書『生きのびるための流域思考』より一部抜粋・再構成してお届けする。

今までの「治水」には限界がある

梅雨の時期には、長く少量の雨が続いた後に、急に激しい雨が集中的に降る場合があります。

近年恐れられている、線状降水帯(積乱雲群が、ほぼ同じ場所で、後方に次々に形成されて、実質的に停滞して、同一カ所に豪雨が降り続く状態)と呼ばれる雨のパターンでもあります。このケースでは、前段の雨で地面への浸透(保水)が進み、有効な保水力が低減しているところへ一気に豪雨が襲うので、急激に水が下流へ流れます。準備のできていない低地帯では、短時間で大きな氾濫の危機に陥ります。

2015年に鬼怒川流域を襲った線状降水帯による豪雨の例が有名です。流域全域に雨が降り続く中、鬼怒川源流の日光地域に2日間で平均600㎜に近い豪雨が襲いました。源流で形成された巨大な積乱雲が、次々に後続の積乱雲の形成を促す「バックビルディング」という現象が起きたためです。

源流で集水された豪雨は、巨大な塊のような流水(洪水:大雨の時に川の中を流れている水のことを洪水と言います。氾濫も洪水と言いますが、ここでは洪水と氾濫を区別します)となって山地を流下し、鬼怒川が利根川と合流する近くの茨城県常総市の左岸地域で大氾濫を引き起こしました。

面積の広い逆三角形(この場合はオタマジャクシの形)の巨大な流域に、線状降水帯の豪雨が襲った、極端な水害の事例でした。今回の静岡県熱海市の土砂災害も線状降水帯による局所的集中豪雨によるものです。

このような水害を防ぐために行われているのが「治水」です。

近代・現代の治水は、雨の水の集まる河川、下水道という構造を効率的、合理的に改造、管理し、低地での氾濫を抑えていくという道を追求してきました。この考えに沿って大水害を抑えるための法律に河川法と下水道法があります。

この2つの法律に基づく行政事業が順調に進めば、流域生態系の集水する雨の水が、大規模な水害をもたらす危険性は、流域各地における複雑で小規模な工夫に頼らずとも、次第に緩和してゆくことができると期待されてきたのでした。

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