「カンヌ映画祭」を乗り切った感染対策の凄い中身 ワクチンパスポートやコロナ探知犬などフル活用

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なお、劇場内ではマスク着用は求められるが、席の間隔を空けて座るといったことは行っていない。これは、最大収容人数の制限が、6月30日よりすでに撤廃されているからである。

コロナ禍はゲストの来仏にも影響を与えた。日本映画で唯一コンペティション部門に出品された『ドライブ・マイ・カー』の主演俳優である西島秀俊さんは、日本帰国後に2週間の待機があるためスケジュール上、渡仏できなかった。『ONODA(原題)』の主演、遠藤雄弥さんと津田寛治さんも同様の理由でカンヌ入りを断念した。

また、今年のカンヌ国際映画祭に4本の出演作が出品されていた女優のレア・セドゥは、映画祭に参加する予定だったものの、新型コロナウイルス検査で陽性が出たため、映画祭への参加を見送った。

マクロン大統領による制限強化の発表

日程のおよそ半分が終わった7月12日には、新型コロナのことに関してマクロン大統領のテレビ会見が行われることになった。この会見は映画祭に向けられた内容ではなく、もっと一般的なものではあったが、感染が拡大傾向にあるフランス国内で、もし何かしらの制限強化が行われれば、映画祭の開催方式に影響がおよぶ可能性もあった。

結果、マクロン大統領の発表は、8月上旬から飲食店や大型商業施設、病院、長距離移動の航空機、列車、バスなどにはワクチン接種証明か陰性証明の提示を求めること、9月15日までに専門職またはボランティアの区別なく医療および介護職従事者のワクチン接種を義務づけることなどの対策であり、映画祭への直接的な影響を与えるものではなかった。そして、映画祭は7月17日にパルムドールを発表し、無事に会期を終えた。

終わってみれば大きな混乱なく乗り切ったカンヌ国際映画祭だが、見えないウイルス相手に、以前までとは大きくイベント運営の方法を変えた。次は東京五輪。すべて終わるまで気は抜けない。

守隨 亨延 ジャーナリスト

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しゅずい ゆきのぶ / Yukinobu Shuzui

愛知県出身、パリ在住。ロンドン大学クイーン・メアリー公共政策学修士修了。東京で雑誌記者、渡仏後はANNパリ支局勤務などを経て、現在は『地球の歩き方』フランス・パリ特派員。フランス外務省外国人記者証所持。主な取材分野は日仏比較文化と社会、観光。故郷の愛知県東海市では『聚楽園大仏を次の世代に伝える会』代表として関連文化財の保護活動に従事する。

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