強制を嫌う仏国民が「ワクチン義務化支持」のなぜ この時期にどうしてもやめたくないことがある

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そもそもフランスは6月から新型コロナウイルス感染症拡大への厳しい行動規制を段階的に大幅に緩和する最中だった。7月初めから夏の長期バカンスに突入し、国民は解放感に浸り、国外でバカンスを過ごす第1陣はすでに出国していた。そこを襲った感染力の強い新型コロナウイルス変異株「デルタ株」の感染者増加の第4波で政府は対応を迫られた形だ。

平均1カ月のバカンスを毎年過ごす欧州人にとって、バカンスでリフレッシュして年の後半に臨む慣習が完全に定着している。例えば、フランス人から夏のバカンスを取り上げたら、うつ病が急増するといわれている。

そのフランスではコロナ禍のロックダウンにより精神的に追い込まれたことで、家庭内暴力(DV)が急増。昨年3月時点の内務省が把握した仏全土のDV事例は878件だったのが、今年3月には1598件と大幅に増加し、児童への性的虐待はこの1年間で2倍に増加した。

ドイツでもロックダウンは持病のある高齢者を追い詰め、子どもは長期学校封鎖で孤立し、深い心の傷を負った。ドイツはフランスの3倍の34週間学校閉鎖が実施され、学校が再開しても不登校の生徒が増え、社会問題になっている。ドイツの児童心理カウンセラーは、不登校の子どもの通常の精神疾患とは別に、ロックダウンがもたらした影響が明らかに大きいと指摘している。

イタリアでは子どもの電話相談の「テレフォノ・アズーロ」利用者が昨年36%増え、自殺未遂に関する電話は121%と急増。今年も増え続けているという。欧州全体で国や年齢を問わず、コロナ危機でメンタルヘルスへの影響が深刻化する中、子どもの心理的負担が大きな問題となっている。

飲食業、レジャー、観光業の復活もかかる

今夏の長期バカンスは、深刻なダメージを受けた飲食業、レジャー、観光業などの業界復活のカギも握っている。

フランスも北欧やドイツ、イギリスからのバカンス客をすでに迎え入れ、パリは外国人旅行者でにぎわっている。政府は7月に入り、デルタ株が蔓延するスペインやポルトガルへの渡航を控えるよう国民に呼びかけてはいるものの、今年のバカンスも諦めろと観光業者には強く言えない状況だ。

イタリアで7月下旬から2週間のバカンスを過ごす予定のフランス人の友人家族は「もう精神的に限界だ。2年ぶりにやっと国外でバカンスが過ごせるわけだから、政府が何を言おうと予定は変えない」と言う。

そこで課題となるのが、医療や介護従事者のワクチン接種率が頭打ちになっている問題だ。フランス公共ラジオ局によると、フランス公共衛生当局の調査などを参考にして、現時点でわかっている医師・看護師のワクチン無接種率が30%強、高齢者施設などの介護士では40%強がワクチンを1回も受けていないという。

医療や介護従事者の中にワクチン接種を拒むケースがある。そこで、まずは説得を試みながらも従わない場合の休職処分、罰金、解雇などが検討されている。

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