日本には高すぎる「一つの中国」を崩すハードル 日本政府高官の台湾傾斜発言はかなり危うい

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日米安保に基づく集団的自衛権の行使は、アメリカ軍の関与が「絶対必要条件」であり、中国の台湾への侵攻や武力行使だけでは発動できない。もしそれだけで自衛隊が出動すれば、中国は日本の「宣戦布告」と見なすはずだ。中山泰秀防衛副大臣は2021年6月30日、アメリカのシンクタンクが主催したシンポジウムで、「台湾は兄弟であり、家族だ」と述べ、台湾を「国家」と述べたのも問題視された。

日中共同声明は条約に準ずる拘束力を持つから、内容変更は簡単ではない。せいぜい2021年4月の日米首脳共同声明などで触れたように、「台湾問題の平和的解決」を明記することで、中国の武力行使に反対する立場を明らかにする以外にはないだろう。

日本国憲法と日米安保条約の共存が崩れた

遠景から眺めると、日本は戦争の放棄をうたった日本国憲法と、日米同盟を外交・安全保障の基軸に「軍事による平和」を前提にする日米安保条約の「二つの法体系」の下で生きてきた。政治的に対立しても、経済のパイ拡大には左右両派とも異存はなく、右肩上がりの経済の下で、矛盾する二つの法体系は「共存」してきた。

しかし安倍晋三政権は2014年、憲法改定によってではなく憲法解釈変更によってこの矛盾を突破した。翌年、集団的自衛権の行使を可能にする安保法制を、世論の反対を押し切って成立させた。「安保条約」が「憲法」に勝ったのである。

日本の衰退でパイ拡大が望めなくなった今、「憲法」体系は政治的影響力をどんどん失っている。世論の右傾化はその反映であり、「中国の脅威」が主流世論になった。しかし2020年、香港を含む対中貿易は貿易総額の26.5%を占め、対米貿易は14.7%にすぎない。中国をいくら敵視しても「衰退ニッポン」から脱却できない。

バイデン政権のアジア政策を統括するカート・キャンベル・インド太平洋調整官が、ニューヨークのシンポジウムで「台湾独立は支持しない」と述べ、「一つの中国」政策を再確認する立場を打ち出した。大統領が希望する秋の米中首脳会談に向けた地ならを始めたのだろう。台湾をめぐり、日本のみが中国と対立する新しい構図に日本は耐えられるだろうか。

岡田 充 ジャーナリスト

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おかだ たかし / Takashi Okada

1972年共同通信社に入社。香港、モスクワ、台北各支局長、編集委員、論説委員を経て、2008年から22年まで共同通信客員論説委員。著書に「中国と台湾対立と共存の両岸関係」「米中新冷戦の落とし穴」など。「岡田充の海峡両岸論」を連載中。

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