テントウムシをゾンビ化し操る「恐怖の虫」の正体 体内を食い荒らし、脳をウイルスでのっとる
ほかの人間を、自由に操ることができたら……なんて考えたことはあるかい? 隠さなくてもいい。いい年した大人だって「社長を自由にあやつりたい」なんて、けっこう、本気で考えていたりするんだ。意外にバカなのだ、大人は。
他人を操れるわけがない。しかし、それができる生き物がいる。そんな黒魔術を使える生き物とは、何かと思えば、ちっぽけな昆虫だ。
「コマユバチ」は「寄生バチ」とよばれるハチの仲間だ。イモムシなどの獲物を捕らえ、その体に卵を産みつける。卵からかえった幼虫は、獲物の体を食べて成長してゆき、やがてサナギとなり、成虫となる。
このコマユバチの一種に、「テントウハラボソコマユバチ」がいる。テントウムシを、専門にねらう寄生バチだ。幼虫に体の中を食われても、テントウムシはいつもどおりだ。内臓など、大事な部分には、幼虫は手をつけないからだ。
幼虫を守りはじめるテントウムシ
しかし平和な日々は、突然終わる。テントウムシの腹から、テントウハラボソコマユバチの幼虫が顔を出すのだ。
驚き、おびえたテントウムシは、幼虫をひっつかんで、ぶん投げる……かと思いきや、まったく正反対の行動に出る。幼虫を守りはじめるのだ。
幼虫がマユをつくり、その中でサナギになっても、テントウムシはその上におおいかぶさって、ガードしつづける。クサカゲロウの幼虫などといった、チンピラがサナギをねらって近づいてくると、足でけって追いはらう。
自分を食い物にしていた、憎い相手を、どうしてテントウムシは、わざわざ守ったりするのだろうか……?
やがてサナギは羽化し、マユの中からは、テントウハラボソコマユバチの、成虫が現れ、大空に飛び立つ。テントウムシには、お礼の言葉ひとつない。相手の体を食いあらし、働かせたうえに、用ずみとなったら使い捨て。親にさんざん甘えて、骨までしゃぶりつくす、ワガママ息子みたいなワルだ。
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