家の前が線路、住民たちの「勝手踏切」が招く危険 江ノ電では4月に人身事故、防ぐ手だてはあるか

拡大
縮小

江ノ電の2018年度の鉄道事業営業利益は、3億4866万円(「鉄・軌道業営業損益」『鉄道統計年報』より)で、コロナ禍の昨今では、さらに厳しい減収が続いている。高架化や地下化事業の多くを沿線の自治体が負担するといっても、非常に難しい状況である。

ならば勝手踏切の該当箇所を、フェンス等で完全封鎖するという手法はどうだろうか。ただ、この方法も住民の反発は必至だ。勝手踏切は、必要があるから渡るのである。先述のとおり、迂回すれば500m以上歩く住宅もあり、住民はなにもゴミ出しだけでなく、駅に出るのも買い物にも、生活の中で当たり前に線路を横断しているそうだ。地場産業的な鉄道会社が沿線住民と確執を起こしても、マイナスでしかない。

列車接近を知らせるランプを設置してはどうか

それならば、少しでも事故をなくす方法を考えなければならない。よく見通しの悪い線路沿いに、列車の接近を知らせる接近灯が設置されている。列車が来るとランプで知らせる装置でJRなどでよく見かけられるものだが、これを積極的に勝手踏切周辺に設置してはどうだろう。実際に江ノ電では、すでに海岸線沿いのあちこちに接近灯を設置している。

保守作業のための接近灯(筆者撮影)

ただ、この装置の設置で鉄道事業者が勝手踏切を認めたとなっても困るので、これはあくまでも保守作業の安全のためとすればいい。もちろん今後も勝手踏切をなくすための努力は必要不可避だ。

鉄道は公共交通機関の中心である。そのため、監督官庁の国土交通省からの指示は絶対だ。それだけの影響力があるのだから、こと交渉は鉄道会社と行政・住民で円満に解決せよ、という消極的なものではなく、国としての指導力・財力を生かしてほしいものである。

特に江ノ電を始めとした中小私鉄は、財力・交渉などの術を持ち合わせていないところが多い。ここは元締めたる省庁の器量を求めたいと強く願ってならない。

渡部 史絵 鉄道ジャーナリスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

わたなべ・しえ / Shie Watanabe

2006年から活動。月刊誌「鉄道ファン」や「東洋経済オンライン」の連載をはじめ、書籍や新聞・テレビやラジオ等で鉄道の有用性や魅力を発信中。著書は多数あり『鉄道写真 ここで撮ってもいいですか』(オーム社)『鉄道なんでも日本初!』(天夢人)『超! 探求読本 誰も書かなかった東武鉄道』(河出書房新社)『地下鉄の駅はものすごい』(平凡社)『電車の進歩細見』(交通新聞社)『譲渡された鉄道車両』(東京堂出版)ほか。国土交通省・行政や大学、鉄道事業者にて講演活動等も多く行う。

 

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
鉄道最前線の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT