コロナで注目、企業間「人材シェア」普及への壁3つ 「要らない人材」放出の場になっては意味がない

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今後、日本の人材シェアはどのような形になっていくのだろうか。筆者は、複数の企業・自治体(以降、企業等)がコンソーシアム(共同事業体)を組み、その中で人材シェアが進むと考える。

現在、企業等が雇用している人材は、将来の経営を担う「人財」として手塩にかけて育成してきた人材であり、人材シェアを躊躇させている要因は「もう戻ってこないのではないか」という懸念である。一方で、企業等が自社だけで人材を抱え続けることはリスクとなる。そういった懸念とリスクの双方を解決するのが、互いに信頼できる企業等が組んで、その中で人材をシェアしていく形、すなわち「コンソーシアム型の人材シェア」である。

具体的には、コンソーシアムの参加企業等が、自社の社員を出向等によって、現在の雇用関係を維持した形でシェアすることで、自社からの人材流出の懸念を解消しつつ、人材シェアを実現することができる仕組みである。

「要らない人材」放出の場では意味がない

もちろん、コンソーシアム型の人材シェアにおいても課題はある。大きく分けて次の3つだ。

一つ目は、企業等が独自にコンソーシアムを形成することが難しいということである。これについては、政府や自治体、取引銀行などが主導して、企業等の引き合わせの場づくりを行うことが必要となるだろう。

二つ目に、企業等が優秀な人材を囲い込み、不活性人材だけをシェアしようとすることで、人材とニーズがマッチングしないことである。これは参加企業等が意識を変えていくことしか解決のしようがない。人材シェアは優秀な人材にとっても、他社での経験を積み、成長する機会となる。企業等は優秀な人材を送りだして、まず互いのメリットになるという信頼関係を築くことから始める意識が必要である。

三つ目に、人材管理の問題がある。人材のシェアでは、週のうち数日など限定的にシェアする柔軟な形も想定される。その際に、労働時間を複数の企業等で正確に把握する仕組みがなければ、働く人の健康を守れず、場合によっては法令違反のリスクもありうる。これは、複数企業等で活用できる人材管理システムの導入が望ましい。

更に、人材を適切にマッチングしていくために、本人の同意を得るなどして各社の人材の保有スキル・経験のデータベース化を行い、本人の意思も尊重しながら、データベースに基づいて企業の枠を超えた適材適所の人材配置を実現していくことで、より一層の効果が見込まれる。デジタル化の進展に伴って、クラウドによる低価格・高品質なサービス提供が可能になっていることから、人材シェアを後押しする人材管理サービスが現れるだろう。

課題はあるものの、いずれも解決可能なものであり、今後はコンソーシアム型の人材シェアが徐々に広がっていくと考える。

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