佐藤社長によれば、2011年12月の事業開始以来、累計85店舗、1700世帯の個人宅にコメを届けてきた。1カ月間の売上は10万シンガポールドル(約800万円)に上る。店舗への営業はテレアポとサンプリング、個人宅への営業はフリーペーパーへの広告出稿や、チラシの配布を行っているが、最近はクチコミや既存顧客からの紹介がきっかけで新規の注文を受けることが多いという。
「食通」が多いシンガポールの人々に、刺さるには?
「富裕層向けのビジネスを行う場所として、シンガポールは非常に適した国です。日本から仕事で来ている駐在員や、出張や旅行で日本を訪れたことのある地元の方々など、比較的所得水準の高い人が集まっています。一方、国土が狭くお金の使い道は限られているため、食事にこだわるひとが大勢います」(佐藤社長)
「高級レストランでは一晩で10万Sドル(約800万円!)使った客がいたなんて話も聞きます。そのようなひとたちを相手にするわけですから、お寿司屋さんなど、コメがなにより大事な業態では品質にこだわるのは当たり前。ラーメン屋や餃子屋、地元の人が経営している普通のレストランなどでも、コメにこだわる店舗がたくさんあります」
富裕層向けのビジネス成功の秘訣は、「積み重ね」(佐藤社長)。「信頼してもらい、裏切らないこと。これを繰り返していくことです」。ありきたりなようにも聞こえるが、「かかわる人みんながちゃんとやらないといけない。だから難しい」のだという。“かかわる人”にはコメを作る農家、コメを運ぶ配送会社、そして買う顧客すらも含まれる。
コメの味は、その年の出来や精米する日の湿気・気温、精米前のコメが入った袋の管理具合によっても違いが出るという。だから少しでも良い状態でシンガポールに運ぶためにエアコン付きのリーファーコンテナを使用し、またコメの仕入先である農家には実際の顧客の声のほか、虫食いの有無や食べたときの食感、梱包などについてフィードバックするようにしている。
しかし、どれだけ工夫してもコメの味は炊くまではわからない。だから初めて注文してくれた顧客には、コメの炊き方や保存のコツを手紙に書いて同封するようにしている。
最も苦労したのは、店舗・個人宅への配送だったという。配送は日系の業者に委託し、顧客が指定した時間に届けるようにしているが、始めの頃は届かない、配送が遅れても業者からの連絡がない、連絡がないから途中でキャンセルといった事態が多発した。
佐藤社長も当時を思い出して「私は相当なクレーマーだったと思います」と自称するほど、それこそ業者に何度も何度も、改善の要望をしたそうだ。
「こうして苦労してコメで築いた信頼のネットワークが宝」だと佐藤社長。昨年は土曜の丑の日にあわせて日本産の鰻を1尾70Sドル(約6000円)で販売。現在は醤油も1本15Sドル(約1200円)で扱っているというが、いずれもよく売れている。「良いものを良いものときちんと伝え続けることで、コメだけに留まらず食のコンサルタントとしての立場を確立することが大事です。俵屋がオススメしている商品なら間違いない。そう思っていただけるように」
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