この調査の結果「経済産業省による不当な株主への圧力はなかった」と結論付けている。疑いがもたれたとは言え、その疑いはなかったわけだから、経済産業省は第3者ということになり、第3者の情報を公開することは適当でないと監査委員会は判断した。そこで調査結果は監査委員会には報告されたが、一般には公表されなかった。
これに不満を持ったエフィッシモ側が、再調査を求めた。そしてその賛否を問うために臨時株主総会を求め、そして臨時株主総会で再調査が可決されたのである。そして今回はエフィッシモ側が「連れてきた」(総会に提案して可決されたことをうけ、調査者となった)弁護士たちが調査を行い、その結果を2021年6月上旬に公表した。これは東芝のサーバーにあったメールを網羅的に検索するなどして、さまざまなやり取りを公表したものである。
「2つの報告書」の事実は同じでも結論は正反対?
私に言わせれば、この公表された調査報告書があまりに赤裸々で「脚色」が面白かったために「小説以上だ」と話題になり、有名になった。ここに及んで、東芝側は「経済産業省に迷惑がかかる」と思って、公表を差し控えていた監査委員会による報告書を公表したのである。しかし、こちらは「いまさら」であり、かつ淡々と事実を冷静に記述してあったために、まったく面白くなかった。だから、ほとんど誰も読まないままのような形となった。
私は、この2つの調査報告書を熟読してみて、驚愕した。結論は監査委員会側では「経済産業省による不当な圧力が存在しなかった」。一方、臨時株主総会での決定を受けて提出された調査報告書は「存在した」としており、結論は正反対だったが、書かれている内容は、事実としてはまったく同一であったからだ。
ではなぜ、結論が異なったのか。それは後者の報告書は、結論にいたる重要な箇所について推測が入っているからだろう。AとCという事実からは、AにはBが存在し、BによりCという結果になったとしか考えられない、という形で、Bがあった、つまり圧力があった、という結論としているのである。
興味深いことに、この後者側の弁護士たちは、記者会見を地味に行ったが、記者会見での質問に対する答えは、報告書とはまったく異なり「はっきりしたことは言えない」ということに終始していたのである。
さてこう書いてくると「真相は藪の中」、というのが日本人には好きな結論かもしれない。だが今回の場合は大きく異なり、事実自体ははっきりしている。あまりに克明に書かれているから、事実は動かしようがない。
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