東芝の判断は愚かだが、「極悪」とまでは言えない 「東芝と経産省の圧力問題」はどう判断すべきか

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東芝がそもそも、原子力発電事業を拡大しようとしたのが、経営判断としては誤りだった。アメリカのウェスチングハウス社を妥当な価格の倍以上で買収、子会社化したことがすべての原因だろう。そして、アメリカ事業の不振が鮮明となって減損を余儀なくされ、この減損をすると債務超過になり、上場を維持できなくなるという懸念が出てきた。

結局、アメリカの原発の建設リスクをすべて自社で抱え込むという形で工事が進まなかった施工のコスト負担問題を解決しようとしたが、そのリスクが見事に降りかかり、債務超過に陥った。あとは債務超過を回避するために、会計上の操作などでコストとリスクを先送りしようとした。この先送りの負担は雪だるま式につみ上がり、維持不可能になって不適切会計が明らかになった、といういきさつだ。

しかし、なんとか上場維持を果たすために、半導体事業という「ドル箱」を売ることにした。ところが、この売却がスムーズに行かず、上場廃止になるリスクが出てきた。そこで当時の綱川智社長は、アクティビストファンドなどを引き受け手とする第3者割り当て増資を行い、資本増強をして債務超過を逃れたのである。しかし、その後、結果的に半導体事業も売れたから、今度は「資本が余る」という状態になった。

このとき、アクティビストファンドとしては、異常なポジションを抱えてしまったことになる。つまり普通は、市場で買うから、株主になると言ってもわずかの程度しか持ち分とならないことが多い。また持ち分が5%を超えると当局に大量保有報告書提出などの面倒なことも多いので、5%未満にとどめることが多い。

だが、エフィッシモは一時約15%程度保有することになった。これは大きなリスクである。多くを市場で売りきることは一般的には非常に難しく、株価が値崩れを起こしてしまう可能性だってあるからだ。

今回の場合は、第3者増資を引き受けた価格が安く、エフィッシモなどは十分得をしているはずだ。だが、さらに高い投資収益を得て「投資の出口」にたどりつくためにも、事業を現金化して配当にまわさせる、あるいは誰かに一段と高い株価でファンドが持つ株式を買収させたりしたい。

しかも、ファンドにとっては永遠に持ち続ける選択肢はない。自分たちのファンドの出資者に対してもリターンを現金化して還元しないといけないからだ。通常は案件がどんなに長くとも10年程度である。だから出資する企業の経営陣とは時間軸での対立が生まれやすい。

そうなのだ。今回の東芝問題とは、小説のようなスキャンダルなのではない。長期的視野で考える経営側と、短期でのキャピタルゲインを求めるアクティビストファンドの意見の対立、というごく普通の問題にすぎないのだ。普通の短期と長期のヴィジョンの対立なのだ。だから、実は騒ぐことは何にもないはずだ。厳密に言えば、根本的なガバナンスの問題もあるが、それはまた改めて書くことにしよう。

まとめよう。東芝は、2つのミスをしたという点で愚かである。ひとつは原発事業に突っ込んだ判断ミスと買収価格のミス。もうひとつは、不必要な増資を行い、しかも必ず対立することが必至なアクティビストファンドをわざわざ自分で選んで株主にしたことだ。国内銀行などで、増資を引き受けるところはいくらでもあったはずで、増資でも劣後債でもさまざまな手段があった。しかも、半導体事業の売却はタイミングが遅れていたとはいえ、数カ月後には実現するのだから、本来であれば国内のすべての普通の投資家も喜んで投資したはずだ。

あえて、アクティビストファンドを大株主として自ら招き入れたこと。これが最大の失敗であり、積極的に自ら望んで行ったのだから、そこは愚かとしかいいようがない、ということだ。今回の事件はそれだけのことである。

(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承下さい)。

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