信越化学・金川社長退任、カリスマ経営者の難題、社長交代でも体制維持
「3人に1人が死ぬ大病にかかったが、しぶとく生き延びた」。
5月20日、社長交代会見を終えた信越化学工業の金川千尋社長は、こんな話を明かした。同社では6月29日付で森俊三副社長が社長に昇格。1990年から社長を務めてきた金川社長は代表権のある会長に就く。
20年ぶりとなる異例の社長交代。加えて、金川社長は「一介の化学会社だった信越化学を世界的な優良会社に引き上げた」(森副社長)存在でもあり、注目を集めている。
同社長の手腕で塩化ビニール樹脂と半導体材料のシリコンウエハは世界首位に躍進し、これを軸に2008年3月期まで13期連続で最高益を更新。売上高こそ業界5位だが、10年3月期の営業利益率は約13%と、2~4%台の化学大手3社を圧倒する。
だが、金川社長は今年84歳。「体力、気力とも歳と共に衰えた」と自身も認める高齢だ。冒頭の昨年6月に患った大病では約2カ月間入院。後任の森副社長も72歳と高齢だが、次世代に後を託す時期に差しかかってもいた。
経営から退くリスク
ただ、交代後も「新社長を徹底的にバックアップして、今まで以上に収益の拡大に取り組む」(金川社長)。「いろいろご教示いただき、新しい事業を伸ばす」(森副社長)と、金川主導体制は続く。
そもそも昨年の株主総会にも出席できないほどの大病を患いながら、金川社長はその後1年近く社長業を続行。今後も会長としてとどまるのは、同氏が経営の前線から突然退くことによるリスクがあるからにほかならない。