奇才が引き出す技術力 “夢の糖”トレハロース《戦うNo.1技術》

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奇才が引き出す技術力 “夢の糖”トレハロース《戦うNo.1技術》

林原では出張の際、欠かせない持ち物がある。それはジッパー付きの小さなビニール袋。出張先の土を持ち帰るためだ。この土こそが林原の研究開発の命だ。

土に含まれる菌を培養し、数千にも上る菌株を保有、でんぷん加工のための酵素を探し出す。「夢の糖」と呼ばれ、味の素やクレハ、武田薬品工業など大企業が開発にしのぎを削った糖質、トレハロース。その量産化を実現したのが岡山市に本社を置く林原だった。

安価なでんぷんを原料とした製造法でトレハロースは従来価格の100分の1である1キログラム約300円となり、一気に普及した。製造特許を押さえ独占販売する林原のユーザー数は、現在5000社以上。約2万の製品に使用されている。販売量はこの10年余りで10倍の3万トンを超え、販売額は90億円に上る。

林原を成功へと導いたのは、林原健社長の決断力だった。業界の集まりにはいっさい顔を出さず、奇才と呼ばれる。JR岡山駅前の広大な敷地に建つ本社では、社長の興味の趣くまま、チベット仏教の経典や、モンゴルで発掘した恐竜化石の研究などが行われている。

あえてニーズを考えず競合のない製品生み出す

そもそもトレハロースは自然界に存在する糖質だ。動植物の組織の中で水に代わる働きをし、水分が失われても乾燥や凍結のダメージから細胞を守ることができる。たとえば干し椎茸を水で戻す際には、椎茸の中のトレハロースが作用している。

甘みは砂糖の45%なので、甘味料としてより、でんぷんやタンパク質などの劣化抑制に用いられる。代表例は和菓子だ。「萩の月」で知られる仙台の菓子メーカー「菓匠三全」は、トレハロースをずんだもちに使用することで、冷凍保存し東京で流通させることに成功した。ほかにも化粧品の保湿成分、繊維の消臭など、食品以外でも用途は広い。トレハロースの採用で、商圏拡大や製品改善を実現した企業は数知れない。

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