奇才が引き出す技術力 “夢の糖”トレハロース《戦うNo.1技術》

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 林原社長はここで決断力を発揮する。糖質分野の研究者25人中19人にこれまでの研究テーマを捨てさせ、加熱に耐えうる新酵素発見に専念させたのだ。福田恵温・林原生物化学研究所所長は、「どれだけの菌株を探せば成果が出るかもわからない、リスクの高い研究。トップダウンで決断する林原でしかできない選択だった」と振り返る。19人で2万8000の菌株を研究、わずか3年で量産化にこぎ着けた。

5000社の取引先を獲得した理由は低価格だけではない。特許戦略と営業戦略にも独自性が光る。

トレハロース自体はすでに知られた物質で、複数の企業が製品使用に必要な特許を取得済みだった。だが購入したユーザーが、他社の特許に束縛されながら製品化するのでは、トレハロースの普及は難しい。そこでこれらの特許を次々買収、ユーザーからは特許に関する費用は徴収しない仕組みを作った。

もともと市場ニーズを考えない開発発想ゆえ、営業部隊も「ほかと違う」手法が求められる。通常、新素材の普及では大手で採用実績を作り、中小に広げていくが、林原は違った。普及に必要なのは、顧客のニーズと、トレハロースで何を解決できるのかを知ることだ。ところが、大手の商談先では「1キロいくらで原価率が何%下がるか、など数字への興味ばかり」(営業を統括する十川高尚・林原商事常務)。なかなか欲しい情報が得られない。

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