奇才が引き出す技術力 “夢の糖”トレハロース《戦うNo.1技術》

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 そこで、「顧客に近い小売店で生の情報を持って帰る」(十川氏)戦略に変更、街の和菓子店やケーキ屋に飛び込み営業をかけ、顧客ニーズを洗い出した。その結果を用途開発施設で検証、砂糖の代替としてトレハロースを何%配合すべきか、などを徹底検証した。地道なレシピ開発で提案能力は高まり、グリコや明治製菓なども取引先に加わった。

ソニー井深氏から薫陶 本格的世界進出に布石

09年9月にはトレハロース専用工場を竣工、現在の販売量の2倍に当たる6万トンの生産が可能になった。今後の焦点は海外市場だ。

すでに、米穀物メジャー最大手のカーギル、英製糖最大手のブリティッシュ・シュガーと、トレハロースの生産・販売提携済みだ。ただ目下のところ、「食品使用の認可に時間がかかり、販売計画は遅れている」(海外販売担当)。そのため、海外販売比率はまだ2割程度にとどまっている。

林原社長は若くして赤字会社の経営を引き継ぎ、多くの研究者に知恵を仰いだ。自宅を行き来するほど交流が深かったのはソニー創業者の井深大氏。好奇心の趣くまま研究に没頭する井深氏の姿が、林原社長の心をとらえた。「経営にプラスかマイナスかだけでなく、製造業として本当に喜ばれる製品をつくりたい」。青年時代に宿ったこのDNAを受け継いでいくかぎり、今後も岡山発の画期的ニュースに期待が持てる。

(麻田真衣 撮影:吉野純治 =週刊東洋経済2010年5月29日号)

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