電車が運んできたキャベツはなぜ「おいしい」のか 東武・京急が実証実験、「朝採れ」を都市部へ直送

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生産者の河田成夫さんは「三浦にはマグロだけでなく野菜もいっぱいあることを知ってもらいたい」と話す。普段は週2日、往復2時間かけ横須賀市の追浜駅前にある京急ストアに届けているが、これが最寄りの三崎口駅までだと「行って帰って15分」で済むという。電車での野菜の運搬は生産者の負担軽減にも役立ちそうだ。

京急の上大岡駅に到着した朝採れのキャベツ(記者撮影)

通常の流通ルートだと、スーパーマーケットなどの店頭に野菜が並ぶのは収穫の翌日以降になる。鉄道が生産地と消費地を結ぶ役割を担うようになれば、郊外にある農産物直売所のような感覚で「新鮮な野菜を買うなら駅で」が当たり前になるかもしれない。

鉄道各社が地域産品を輸送

野菜に限らず、最近はJR東日本が新幹線や在来線特急で鮮魚を輸送するなど、各地の産品を人口の多い都市部に運ぶために鉄道を活用する例が増えている。

狙いの1つが沿線観光地のPRだ。JR西日本は3月28日、京丹後や福知山、舞鶴といった京都府北部の地域産品を京都駅で販売するイベントを開催。一部の商品は、当日に京都駅へ到着する在来線特急で輸送した。対象列車は東舞鶴10時27分発、京都12時7分着の「まいづる6号」。京都駅の山陰線ホームに到着した列車からイベント会場までは同駅の係員が台車を使って運搬した。

JR京都駅の係員が到着した地域産品を運ぶ(記者撮影)

同社の若菜真丈京都支社長は「乗客減で空いた列車のスペースを活用して地域産品を運ぶことにした。新型コロナの影響で観光業界は大変苦労をしているが、当面は近距離の旅行がメインになりそうなので、北近畿の魅力を発信することで関心を持ってもらいたい」と語った。

京急電鉄で実証実験を担当したグループ戦略室の市橋樹也課長は「新型コロナの影響が収まった後にどのような人の流れになるか見通すことは難しいが、乗客を運ぶ以外の『プラスアルファ』の要素として、今後も活用を検討しながら沿線地域の活性化に取り組んでいきたい」という。移動需要が大きく落ち込む中、鉄道各社による沿線地域の特産品の輸送は、離れた地域同士の絆を深めるための重要な手段の1つとなりそうだ。

橋村 季真 東洋経済 記者

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はしむら きしん / Kishin Hashimura

三重県生まれ。大阪大学文学部卒。経済紙のデジタル部門の記者として、霞が関や永田町から政治・経済ニュースを速報。2018年8月から現職。現地取材にこだわり、全国の交通事業者の取り組みを紹介することに力を入れている。

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