コロナ禍を経て「再国営化」に向かう英鉄道の事情

複雑な「フランチャイズ制度」見直し一元化へ

英政府は今回の白書発表に当たり、GBRの目標として9項目を挙げている。

1. 政府は鉄道事業の改革を優先事項として実施する。
2. 向こう30年間にわたる戦略と5年間の事業計画を策定する。
3. 鉄道事業全体の予算を管理する。
4. 安全で効率的な運用に責任を持つ。
5. 乗客による提案に責任を持って対応する。
6. 駅施設を含む鉄道インフラは自社で管理する。
7. 事業計画は公共の利益に資するものとする。
8. 地域を跨がる鉄道貨物事業をサポートする。
9. 「GBRリージョナル」では各地域の運営チームが意思決定を行えるようにする。

これらの多くは、民営化による上下分離制度の弊害で起きた失敗への反省を反映したものだ。

列車の運行とインフラ管理が別組織であることによる風通しの悪さを解消して安全性や効率性の改善を図るほか、大都市の主要駅はネットワークレールが保有する一方でほかはTOCが管理するなど、極めて複雑な状況だった駅などのインフラ管理をGBRに一元化。現在の体制下では主にTOCやインフラ整備を担うネットワークレールがそれぞれ担っている予算管理もGBRが行う。また、現在はTOCごとにスタッフを抱えているカスタマーサービスなども集約する。

さらに、9つ目の項目には「GBRリージョナル」の名称が見られる。これは、いわばローカル線運営のための仕組みで、地域単位で予算策定や支出について自己管理するというものだ。チケットの販売や旅客サービス、駅の管理など運営にかかる事業全般について、地域の自治体とも協働した組織が広範な権限を持てる仕組みを作るという。

コロナ禍が機構改革のきっかけに

英国の鉄道は現在、筆者が2020年7月16日付記事(「『日本式』がベスト?岐路に立つ英鉄道の民営化」)で紹介したように、コロナ禍による利用需要の急激な減少に伴い、フランチャイズ制が暫定的に停止されている。

つまり、旅客収入を運輸省が一旦預かり、それを現状のTOCに分配するという形で、各企業は旅客減少のリスクを負うことなく運営できる形を取っている。言い換えれば、GBR誕生後とよく似たスキームをすでに実践しているともいえる。当面は従来のTOCが各路線の運行を受け持つが、ある時点で改めてGBRを母体する再編後の契約条件でPSOに運行を委託することになるだろう。

英国の鉄道業界はコロナの襲来で絶望的な収入源に陥った。ただ、機構改革に着手するには絶妙なタイミングとなったとも言える。GBRによる改革で英国鉄道の欠点や問題点はどのように改善することになるだろうか。今後の展開を注視したい。

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