コロナ禍を経て「再国営化」に向かう英鉄道の事情

複雑な「フランチャイズ制度」見直し一元化へ

一方で、問題も少なからず発生している。導入から20年以上を経たフランチャイズ制度だが、過去10年間はTOCとして参入を希望する入札企業の数はそれ以前と比べて明らかに減少。運輸省が公募した案件のうち、3分の2は無競争で運営権が付与される事態となっていた。

これは、運輸省がTOCに対する支払いの管理やリスクマネージメントに関する要件をより厳しくしたこと、鉄道路線そのものが飽和状態にあり「商業的なインパクト」のある列車運行の余地がないこと、などの背景があると考えられている。さらに、企業側が業績悪化によって運営権を返上したり、基準に満たないとして運輸省が運営権を剥奪したりといった事態も起きている。

運輸省は今回の改革に着手したきっかけについて、「列車の定時運行実現のためには、これまでにない大きな変化を鉄道界にもたらす必要がある」としている。そのうえで、「3年前に起きたダイヤ改正の失敗は、これまでの仕組みが機能していないことを示している」と説明する。

「3年前の出来事」とは

イギリスで「2018年5月の鉄道網混乱」と記憶されているこの問題は、主にロンドンを縦断する「テムズリンク」とイングランド北部で運行を受け持つ「ノーザン」の2社において、設定された本来のダイヤ通りに契約通り運行できず、遅延や運休が頻発した事態を指す。

両社がいずれもダイヤ設定本数の85%前後しか運行できなかったこのトラブルでは、やむなく間引き運転のダイヤを定めてその場をしのごうとしたが、問題の解決には至らなかった。

原因は複合的だ。テムズリンクはロンドンブリッジ駅の改装完成を機に列車増発を図ったものの、信号システムや車両運用、運転士不足などさまざまな理由が複合的に重なって問題が発生した。一方、ノーザンのトラブルはイングランド北西部での電化工事が遅れていたにもかかわらず、ダイヤ編成にその点が十分に反映されていなかったことが理由だった。同線区をめぐっては「運行の遅延や列車のキャンセルが慢性的に起きている」としてTOCの運営権が剥奪され、現在は運輸省傘下のTOCが運行している。

どちらのトラブルもTOC単体の問題ではなく、駅や路線の工事といった「下」を担うネットワークレールの問題が絡んでおり、上下の連携ができていなかったことによってトラブルが拡大したといえる。

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