コロナ禍を経て「再国営化」に向かう英鉄道の事情 複雑な「フランチャイズ制度」見直し一元化へ
1997年に完全民営化を果たしたイギリスの旧国鉄。列車運行と線路インフラの保有・管理を別々の組織が担う「上下分離」方式を採用し、列車運行に民間企業を多数参入させるシステムによって20年以上にわたり運営が続いてきた。
だが、コロナ禍による旅客需要の蒸発によって、民営化の軸となってきた「フランチャイズ制度」の維持が困難な事態に陥ったことから、英運輸省は5月20日、鉄道事業の改革に向けた指針を示した白書を公表。「グレート・ブリティッシュ鉄道(GBR)」と呼ばれる公的機関を2023年に創設し、大幅な運営制度の見直しを行うとしている。ここにきて事実上の「再国営化」へと大きく舵を切ることとなった。
民営化で利用者は増えたが…
民営化後のイギリスの鉄道運営は、上下分離の「下」にあたる線路や信号、駅などインフラの保守管理は運輸省傘下の「ネットワークレール(Network Rail)」という組織が担っている。一方、「上」にあたる列車の運行事業はTOC(列車運行会社=Train Operating Company)と呼ばれる民間企業が行う。
「フランチャイズ制度」は、TOCに運営権を与えるシステムだ。運輸省が路線や地域ごとに「フランチャイズ」(運営権)を設定。競争入札によってこの権限を獲得したTOCが、入札時に提示した条件に沿ってダイヤや運賃を設定して運行し、TOCはネットワークレールなどに施設の使用料を支払うという形だ。
TOCには国内企業のほか外資も参入しており、現在はドイツ鉄道(DB)、オランダ鉄道(NS)、イタリア国鉄(FS)などが進出。日本も、JR東日本や三井物産がTOCの1つである「ウェストミッドランズトレインズ(West Midlands Trains)」に出資している。
同一線区に複数のTOCが参入することで競争が発生したり、TOCがいわゆるダイナミックプライシングの手法を使ってさまざまなプロモーション運賃を導入したりして、利用者は国営時代と比べ圧倒的にお得に鉄道が利用できるようになった。その結果、イギリスの鉄道利用者数は、コロナ禍前には第2次大戦後で最多の水準までに達していた。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら