添乗員は見たコロナ禍の「密告ツアー」の修羅場 GoToの効果はなし?団体ツアーの客足は今一つ

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そこでダメージを受けた業界を救済するという目的で、政府のキモ入りで「Go Toトラベル」事業がスタートした。

国の支援を受けて秋口になって、ぼちぼちと国内ツアーは復活してきた。私も2020年10月の終わり頃から、添乗業務を再開するようになった。といっても相変わらず疫病に罹患する人は多く、出発するツアーも、まばらではあったが。

私の乗った観光バスが、高速道路を走る。対向車線に目をやれば、観光バスとすれちがうことは、ほとんどなかった。サービスエリアに立ち寄っても、他のバスは滅多にいなかった。

観光地や土産物店に寄っても、同じことである。本来ならば1年で最もにぎわいを見せる紅葉シーズンに、団体ツアーの客足はいまひとつであった。

女性客同士がつかみ合いの喧嘩に

それでも秋が深まるにつれて、ツアーの参加者がぽつりぽつりと増えてきた。ひじょうにありがたいことなのであるが、困ったことも起こった。

バス内のトラブルでもっとも多いのが、ケータイに関するものである。大声でしゃべる、長時間にわたって会話をするなどの迷惑行為が、まれにある。次に多いのが、リクライニングシートを倒すことで起きるもめごとだ。たいていはシートを倒すことは禁止と言うと、収まるものである。

だが知り合いの添乗員のバス内では、女性どうしが髪をつかみあうケンカにまで発展したこともあったという。

はやり病が収束を見せない中でのバスツアーでは、新種のトラブルが出現した。

ウイルスに対する意識は、人さまざまである。見えない敵に対して過剰に反応する人がいる一方で、ほとんど気にかけないという人もいる。

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感染にのほほんとしたグループが、話に花を咲かせている。それに対して意識が対極的で、かつ気性の激しい人が注意をした。そうして言い合いになってしまい、バス内の雰囲気が悪くなってしまったことがあった。

またコロナ禍のバス内では原則、食べることは禁止となっていた。けれども移動時間の長い折など、ビスケットなどの音の出ない食べ物を、こっそりと口にしのばせる人もいたりする。それを見つけて、私に知らせに来る人がいた。

マスクを一時的にはずして、食べ物をつまむぐらい、個人的には目クジラを立てるようなことではないと思う。立場上、ツアーの参加者を前にして決して言うことはできないことであるが。

だが、そういう場合に添乗員が何も行動を示さないと、確実にクレーム沙汰になってしまう。そこでなるべくやんわりと、隠れ食いをした人に注意するようにした。

そのようなことが何度もくり返されると、本来ならば愉しむために参加しているバス旅行が、いつしか密告ツアーめいた趣になってしまうのが、そら恐ろしかった。

梅村 達 派遣添乗員

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うめむら たつ / Tatsu Umemura

1953年東京都生まれ。といっても東京にいたのは10歳まで。以降は埼玉、再び東京、千葉と移り住む関東流れ者。現在は北関東の群馬県前橋市在住。住居と同じく仕事のほうも転々として、映画制作スタッフ、塾講師、ライター業を経て、派遣添乗員に。添乗員として大手のほとんどの旅行会社で仕事をする。

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