倒産急増の観光業が「人ごと」ではすまない理由 コロナ後に勝ち残る地方観光地をつくる処方箋
観光業の低迷は観光業に携わる人間だけの問題だとは言えません。観光地に人が出向くことは、観光事業者だけではなく、そこで消費される農林水産や加工など域内産業への貢献もあります。目的地までの輸送や途上での飲食・買物消費なども含めて考えると、波及効果の裾野は広い。
これらの多くは労働集約型であって雇用維持効果も大きく、雇用所得がさらに消費を拡大させる二次波及効果が出やすい産業でもあります。実際、観光業があることによって地元経済が成立してきた地域も多いのです。
この10年ほど盛んになっている地方創生の議論は、東京を始めとした都会での出生率がその他の地域と比べて著しく低いにもかかわらず都市部に人口が集中。これが国全体の人口減少を加速させ、国力低下に直結している……。この対策として地方の定住人口を増やすべき、というのが議論の発端の1つとなっています。
地方の定住人口を増やすには結局のところ、その地方にどういう産業を栄えさせ、雇用を維持・拡大するのか、が最も重要な課題となりますが、この観点からも観光業の役割は小さくありません。
事実、コロナ・ショック前、観光は日本の経済全体の成長に対し大きく貢献していました。例えば2012年〜2016年にかけて、観光GDPは23.0%成長し、伸び率は輸送用機械とともにトップクラスになるなど、経済成長の主要エンジンに変化していたといっても過言ではありません。
この観点から言うと、裾野の広い観光業の中長期的な低迷は、地域経済の疲弊によって人口減少を加速させ、国全体の競争力を減退させるリスクを大きくしていると考えられるのです。
コロナ・ショック前も今も観光業に必要なこと
コロナ・ショックという観光業にとって未曽有の危機にあたり、Go Toキャンペーンのような需要喚起策=短期的なカンフル剤を打つことで生き延びることも大切ですが、それだけで明るい未来はきません。来るべき人口減少時代に備え、観光業サイドが本格的に変質しなければならないことは山ほどあります。
まずは、この苦しい状況だからこそ、稼ぐ力を上げるべく経営体制や業界構造にメスを入れること。
これまでのように「家」と「業」が切り離されない経営体や、地域の名士だけが観光業の中心に居続けていては変われない。きちんと経営ができる事業者に任せるべき分野は任せ、分業すべき機能は分業してしっかりと規模の経済を働かせる。
その上で、川上・川下に対する交渉力を強化し、顧客ニーズに即した正しいマーケティングを行うことが求められています。家業の延長ではなく、産業としてしっかりビジネスを展開することで地域の雇用を増やしていくイメージです。
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