中国脅威論で復活してきたアメリカの産業政策 新自由主義時代の小さな政府から大きな転換
21世紀の戦争は、戦車や戦闘機の数ではなく、技術のプラットフォームを握るか否かで競われる。これを制覇した国が経済そして軍事で世界をリードする。そのためには国内で強力なイノベーションの仕組みを維持することが不可欠だ。
だが、この点でアメリカは危機的な状況にあると、シンクタンク・情報技術イノベーション財団(ITIF)のデビッド・アトキンソン氏はいう。同氏が提唱する「成功するイノベーショントライアングル」を一国で創造するには、(1)ビジネス環境、(2)規制環境、(3)イノベーション政策の3点すべてが揃わなければならないのだという。アメリカはビジネス環境と規制環境の2点では満足できる状況にあるが、最後のイノベーション政策については政府による大幅なテコ入れが必要だと説く。
共和党も対中国で産業政策を支持
大きな政府へのシフトはリーマンショックからの復興をリードしたバラク・オバマ政権時代から徐々に見られ、バイデン政権に始まったことではない。民主党のクリントン政権時代に新自由主義を掲げて幅を利かした民主党指導者会議(DLC)はオバマ政権時代に解体された。
民主党に限らず、共和党でもパラダイムシフトが見られる。従来の自由経済を掲げる勢力は衰え、2016年そして2020年に財政拡張や保護主義を唱えたドナルド・トランプ氏が党の指名を獲得したのも時代の変化を反映しているといえよう。
従来、小さな政府を掲げてきた共和党が産業政策への支持を強めている背景にも、安全保障面での懸念がある。軍民融合の中国が新興技術でリードすれば、経済面だけでなく、安全保障面でもアメリカによって脅威となる。前述のNSCAIもトランプ政権時代に共和党が上下両院で多数派を握っていた議会によって設立されたものだ。
ピュー研究所によると国民の67%が中国に対しネガティブな見方をしている(2021年2月調査)。またギャラップ社によればトランプ政権においても政府の役割拡大を望む国民は54%にも上っていた(2020年8~9月調査)。大きな政府は時代の潮流のようだ。
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