中国脅威論で復活してきたアメリカの産業政策 新自由主義時代の小さな政府から大きな転換
ただ、過去約40年は、「産業政策」がアメリカ政治の表舞台から姿を消した。1970年代に起きたスタグフレーションの解決策として1980年代に新自由主義が台頭して以降、超党派で小さな政府を掲げる時代に入った。共和党のロナルド・レーガン大統領は1981年の就任演説で「政府は解決をもたらさず、むしろ政府こそ問題」と語った。
小さな政府を掲げる共和党に対し、民主党は有効的な代替策を打ち出すことができなかった。民主党のビル・クリントン大統領も1996年の一般教書演説で「大きな政府の時代は終わった」と訴え、経済政策では北米自由貿易協定(NAFTA)発効など新自由主義を推進した。その後、アメリカが世界経済で指導的役割を担う中、歴代政権では新自由主義が維持された。
しかし、今日では外敵脅威、特に中国脅威論が、アメリカの産業政策復活を後押ししている。第二次世界大戦後、75年以上続いた「パクス・アメリカーナ」は米中ハイテク冷戦により存続が危ぶまれているからだ。自国にハッカー集団をかくまうロシアによるサイバー攻撃の脅威も、産業政策導入の機運を高めている。
「アメリカに残された時間は5年未満」
アントニー・ブリンケン国務長官は、「テクノ民主主義」あるいは「テクノ独裁主義」のいずれかが、今後数十年間の世界を形作ると主張する。前者はアメリカがリードする世界、後者は中国がリードする世界だ。「テクノ独裁主義」が覇権を握る世界では個人情報も中国政府が入手し監視する、民主主義は蝕まれアメリカ国民の生活をも直撃する、というわけだ。
2021年3月、NSCAI(人工知能に関する国家安全保障委員会)はバイデン大統領とアメリカ議会に最終報告書を提出。報告書は、AI(人工知能)分野でアメリカは中国に勝つ準備ができていないと警鐘を鳴らした。政府が早期に対策を講じなければ、AIに限らず量子計算など中長期的に経済を牽引するはずのさまざまな新興技術で、アメリカ産業界は何世代にもわたって遅れを取り戻せないとしている。NSCAI委員長のエリック・シュミット元グーグル最高経営責任者は、アメリカに残された対策期間は5年未満だと主張した。
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