リシュモンは日本のものづくり企業と体質が似ている。南アフリカの小さなたばこ工場から出発し、創業者の現会長など町工場の親方みたいな人です。派手な積極経営で鳴らすLVMHと正反対の、石橋をたたいて渡る堅実経営。
近年、アメリカの宝飾ブランド・ティファニーをめぐりLVMHは買収発表、その後白紙撤回、続く訴訟合戦とメディアを騒がせましたが、リシュモンも買収を打診されていた。でも断った。自社2番手の宝飾ブランド・ヴァン クリーフ&アーペルよりもキャッシュフローが少ないと。財務基盤の強固さが第一なのです。そうした点も日本の老舗企業の考え方と親和性が高い。
グッチを上回るブランドでも不思議はない
──副題で「感性価値の高め方」をうたっています。
物を運ぶのがかばんの機能だとしたら1000円のトートバッグで事足りる。ルイ・ヴィトンの20万円のバッグは19万9000円が機能以外の情緒的価値ともいえる。彼らは歴史、土地、人物、技術をブランド要素として最大限活用する。日本にも創業の思いや高い技術、卓越した職人など物語を持つ企業は多数あるのに、それをブランド価値にまで高めきれていない。
──とりわけ、歴史の生かし方について注文を出されています。
日本には100年以上続く老舗がたくさんある。まずその価値をしかと認識してもらいたい。「創業寛永年間」というような言いっぱなしでは、どれほどの価値があるか消費者には全然伝わりません。
私が今着けているベルトは甲府の印傳屋上原勇七のものですが、同社の創業は1582年。戦国時代、鎧甲のひもには軽くて丈夫な鹿革が重用された。そこから脈々と受け継いだストーリーを滔々(とうとう)と語ればいいのに、あまり語らない。
あるとき本店に行ったら、鹿革製のグッチのバンブーバッグが置いてあった。どうしたのと聞いたら、コラボしたと。持ちかけたのはグッチ側で、記念にもらったので展示してあるだけ、価格は知らないという。今年やっと創業100年目のグッチが、来年創業440年の印傳屋の歴史に、敬意とともに「あやかりたい」とコラボを持ちかけたくらいなのだから、グッチを上回るブランドになっていても、何ら不思議ではないのに。
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