日本の老舗が「カルティエ」になれない根本理由 歴史もストーリーもあるのに生かせていない

✎ 1〜 ✎ 344 ✎ 345 ✎ 346 ✎ 最新
拡大
縮小

リシュモンは日本のものづくり企業と体質が似ている。南アフリカの小さなたばこ工場から出発し、創業者の現会長など町工場の親方みたいな人です。派手な積極経営で鳴らすLVMHと正反対の、石橋をたたいて渡る堅実経営。

近年、アメリカの宝飾ブランド・ティファニーをめぐりLVMHは買収発表、その後白紙撤回、続く訴訟合戦とメディアを騒がせましたが、リシュモンも買収を打診されていた。でも断った。自社2番手の宝飾ブランド・ヴァン クリーフ&アーペルよりもキャッシュフローが少ないと。財務基盤の強固さが第一なのです。そうした点も日本の老舗企業の考え方と親和性が高い。

グッチを上回るブランドでも不思議はない

──副題で「感性価値の高め方」をうたっています。

物を運ぶのがかばんの機能だとしたら1000円のトートバッグで事足りる。ルイ・ヴィトンの20万円のバッグは19万9000円が機能以外の情緒的価値ともいえる。彼らは歴史、土地、人物、技術をブランド要素として最大限活用する。日本にも創業の思いや高い技術、卓越した職人など物語を持つ企業は多数あるのに、それをブランド価値にまで高めきれていない。

長沢伸也(ながさわしんや)/1955年生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科修了。立命館大学経営学部教授等を経て、2003年から現職。LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン寄附講座教授、仏ESSECビジネススクール、仏パリ政治学院客員教授等を歴任。著書に『ルイ・ヴィトンの法則』『シャネルの戦略』『グッチの戦略』ほか(撮影:尾形文繁)

──とりわけ、歴史の生かし方について注文を出されています。

日本には100年以上続く老舗がたくさんある。まずその価値をしかと認識してもらいたい。「創業寛永年間」というような言いっぱなしでは、どれほどの価値があるか消費者には全然伝わりません。

私が今着けているベルトは甲府の印傳屋上原勇七のものですが、同社の創業は1582年。戦国時代、鎧甲のひもには軽くて丈夫な鹿革が重用された。そこから脈々と受け継いだストーリーを滔々(とうとう)と語ればいいのに、あまり語らない。

あるとき本店に行ったら、鹿革製のグッチのバンブーバッグが置いてあった。どうしたのと聞いたら、コラボしたと。持ちかけたのはグッチ側で、記念にもらったので展示してあるだけ、価格は知らないという。今年やっと創業100年目のグッチが、来年創業440年の印傳屋の歴史に、敬意とともに「あやかりたい」とコラボを持ちかけたくらいなのだから、グッチを上回るブランドになっていても、何ら不思議ではないのに。

次ページ日本企業の価格設定も大問題
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT